アスペクト、テンス、モーダリティ
1. 前回、テンスの機能に関する伝統的な理解と、それに対するKlein の批判を見た。伝統的理解の中核をなす、文のテンスが(それが描出する)事態の時間 time of situation を直接指示する、という観念をKlein は批判する。 では、彼はテンスが指示する時間を…
1. 前々回、Klein のTopic time, Time of situation, Time of utterance という三つ組みは、あたかもReichenbach の三つ組みの改良版に見えるが、彼自身はそれを意図したのではない、と記した。 なぜなら、彼の理論は、Reichenbach も共有する、過去の伝統的…
(前回より続く) ⑥Klein の手法 この書、Time in Languiage の全編を通して、<意味meaning / 含意implicature>の区別が、議論の足場として効果的に使用されている。(ただし、Kleinは、この意味での<meaning>の代わりに<lexical content>を使用している。) 言葉および 言葉が集成され</lexical></meaning>…
1. Wolfgang Klein, Time in Language, (1994) の内容の検討に入る。(今後、TLと略す。) 目指すところは、何らかの学びをこの書から得ることであり、詳細でバランスの取れた紹介を行うことでも、その主張の数々に是非を下すことでもない。 従って、その発…
1. 語彙的アスペクトの分類について、基本的な確認をしておく。 当ブログでは、Vendler による4分類を基に、これまで語彙的アスペクトについて語ってきた。まずは、それに補足すべき重要なアスペクトの種類は何か、が問題となる。 また個々の語彙的アスペク…
(前回より続く) 1. 次に、文法的アスペクトgrammatical aspect について。 動詞の語尾変化のような、文法的なdeviceによって示されるアスペクトを文法的アスペクトと呼んでいる。日本語のル形/テイル形の対比は、その例である。 文法的アスペクトは、しば…
1. 進行相の問題にさらに入ってゆく前に、ドイツ出身の言語学者、Wolfgang Klein のアスペクト研究(Wolfgang Klein, Time in Language, 1994)について見ておきたい。そこでは、"Topic time " という概念を用いて、テンスとアスペクトに関する、一貫した説…
1. 2021-10-25の補足として、アスペクト知覚の問題を再び取り上げる。先の記事は、見られる事象の「無時間性」という問題について、未だ掘り下げが不足している。特に、「閃き」と「恒常性」という視覚的アスペクトの様態(PPF118)との関連において。 「見る…
1. 進行相への当ブログの関心は、ウィトゲンシュタインのテクストから直接に喚起されたものではなく、いわゆる「行為の哲学」への関心を介して得られたものだった。 よく知られるように、動詞のアスペクトの問題は、アリストテレスにおける「デュナミス(可…
1. 当ブログの中で、進行相 の問題は、主に 3つの平面 / 流れ において現れてきた。 次のステップに進む前に、それを簡単に確認しておく。 Ⅰ.行為と目的、行為と規範 行為には、本来的な終点=目的endを有し、開始から終点までの到達に幾らかの期間を必要と…
1.“説明のアスペクトに向かって” 以来、フランス語の半過去の使用と「説明」とのつながりに目を向けてきた。 一方、日本語においては、パーフェクト相としてのテイル形と 「説明」、「理由づけ」 との結びつき も注目に値する。 ※日本語の「テイル/テイタ」…
1. 前回、次のように述べた。 表情、視覚的アスペクト、形象の類似、言葉の意味、等の「一瞥されるもの」は、しばしば「無時間的命題」によって表現される。 そして、「一瞥されるもの」を認知する体験は、その「無時間的命題」を「出来事化」し、「時間化」…
1. 定延利之『煩悩の文法』は、「知識の表現と体験の表現との差異」という、ウィトゲンシュタイン『探究Ⅱ』xi節に通じるテーマを中心に、さまざまな興味深い言語現象を論じている。 (ウィトゲンシュタインの場合は「知っていることと 感覚していること との…
1. 前々回、アスペクト知覚体験の表現との類比を通して、(一部の)「美学的説明」の中に、「体験の表現」の相を見ようとした。 (「体験の表現」の相を見る、とは正確にはいかなることか? という問いについては保留した。) その際「美学」が(語源的にも…
1. 不適切な場面に<原因ー結果(効果)>の観念を持ち込むこと、さらに因果的説明を与えることを、ウィトゲンシュタインは哲学的混乱の原因の一つとして批判した。それについては、当ブログで様々な例により確認した。 “「説明」の周辺(9)”、“「説明」の周…
1. ウィトゲンシュタインの「数学の基礎」に関する考察を読解してゆく内に、 目的=終点endを持ち、遂行に時間を要する行為を表す動詞(Vendlerの分類でのaccomplishment verb)の、imperfectiveな使用の問題 に関心を見出して、ここまで来ている。 ただし、…
1. さて、「ぴったり合った内筒シリンダーと外筒シリンダー」(cf. PI 182)は、絵に描くことができる。 この一つの絵を相手に提示して情報伝達を行う、様々なゲームを想像することができる。 (その絵は、ウィトゲンシュタインの謂う、「像」の一つと見なせよ…
1. 行為と状態(2)以降、 進行相での行為描出 と 状態記述 との類似/差異 を問うことから始めて、ここに至っている。 ※上にも記しておいたが、 ここで言う「進行相」の内容は、英語の進行形、フランス語の半過去、日本語のテイル/テイタ形、各々における進…
1. 前回見た、「半過去の機能=属性付与」説、その論述には説得力がある。 しかし、それをこちらが「半過去の機能は、動詞の状態化である」と要約してしまえば、議論の常識的な出発点に戻っただけ、と言われるかもしれない。 というのも、imperfective aspec…
1. ヴァインリヒの「半過去=背景描出」説について見てきたが、次に、同様に包括的な、半過去の機能に関する別の説についてみてみよう。 春木仁孝は、半過去の意味効果は、 「恐らく総ての用法において共通して半過去が持つと考えられる属性付与という機能か…
1. ヴァインリヒの「前景Vordergrund/背景Hintergrund」という対立概念について簡単に見たので、「説明の半過去」のテーマに戻ろう。 「説明の半過去」とは、Le Bidois et Le Bidois (1935, t.1, p.434,§.730) の用語であり、つぎの例のように、半過去で示さ…
1. ヴァインリヒは『時制論』で、テクスト言語学の立場から、時制形式の機能を解明しようとした。 すなわち、言語的コミュニケーションの現場で、時制形式が与える情報(彼の言う「信号価 Signalwert」)を、3つの側面に区別して分析しようとする。それが「…
1. 前々回、「説明の半過去 imparfait d'explication」という概念を紹介した。 その「説明」とはそもそも何か?という問いを通して、「関連づけ」という概念に注目した。 さらに、前回、「関連づけ」と半過去の使用とに本質的つながりを認めようとする説を紹…
1. 前回、叙想的アスペクトの一例として、フランス語における「説明の半過去」を取り上げた。 さらに、日本語「のだ」の用法の定義を参照して、「説明する」と「関連づける」の意味上の類似に注意した。 通常、半過去の本質は、その「imperfectiveというアス…
1. 前々回、「叙想的テンス」(寺村秀夫)に加えて、「叙想的アスペクト」の概念を導入した。 フランス語学の渡邊淳也は、「事態そのもののアスペクトは完了相であるにもかかわらず、未完了アスペクトをあらわすはずの半過去が使われるいくつかの場合」を例…
1. ここまで、元々は行為動詞のimperfective aspectでの使用を解明することがテーマであり、そのために進行相の使用される有様を観察してきた。あれこれとトピックをたどってゆくうちに、一方で「叙想的テンス」(「ムードのタ」)、他方で「叙想的アスペク…
1. 前回触れた日本語の「た」の用法に関連して、「ムードの‘タ’」「叙想的テンス」という概念を提示したのは、寺村秀夫である。 日本語を勉強している外国人の学生の多くがふしぎに思う過去形の使いかたに、次のようなものがある。 たとえばある学生が奨学金…
1. 必要あって、進行相の特徴づけという問題に足を突っ込んでいる。(英語、フランス語、日本語の進行相を、学問的手続き抜きに(あるいは不用意に)比較しているが、筆者個人の内での思考(=試行)に向けたメモなので、当面それでかまわない。) ここまで…
1. 進行相 progressive aspect による表現と「事象を観察しているかのように表現する」という特徴との関係 が現在のテーマである。 前回、フランス語学では、半過去の本質を考察するに当たって、「観察しているかのように表現する」という特徴(あるいはそれ…
1. 前回、英語の進行形の表現を 感覚を通じた観察体験の報告に類比する、というアイデアに注目した。(Jacobus van der Laanのように、この線に沿って進行形の考察を進めた論者も存在した。) しかし、進行形を使った記述は、必ずしも、事象が現実に観察され…