3つのコンセプト

1.

行為と状態(2)以降、

進行相での行為描出 と 状態記述 との類似/差異 を問うことから始めて、ここに至っている。

※上にも記しておいたが、

ここで言う「進行相」の内容は、英語の進行形、フランス語の半過去、日本語のテイル/テイタ形、各々における進行相的用法を念頭に置いている。

また、「状態記述」とよぶもののプロトタイプは、

日本語の形容詞、形容動詞を述語とする文、英語のbe動詞+補語を述部とする文、である。

ただしかし、進みゆく船の舳先から舳先に飛び移るように、強引にトピックの間を移動していったために、議論の筋道は見えにくくなっている。

 それゆえ、一旦、ここまでの道程についてメモしておきたい。

具体的内容と説明については繰り返さない。

 

2.

行為と状態(2)~(3)

先の問いから見えてきたポイントについて、まずアスペクト的側面から。

類似する側面は、

①時点について言えるかどうか:状態記述や進行相は時点について言うことが可能

②非有界的unboundedな記述であること:

〇 She was pretty at that time,and she may still be pretty now. 
? She walked at that time,and she may still walk now. 
〇 She was walking at that time,and she may still be walking now.

 

相違する側面は、

③行為の非一様性

一般に状態の記述は一様homogeneousな様態が持続することを表すが、動詞の進行相は必ずしも一様な様態の持続を表さない。

④定まった期間を表す副詞句と共起しにくい:ただし、許容度は状況や使用者、諸言語によって差がある。

〇 He was out of work for three months.
?   John was singing for ten minutes.
* Pendant trois ans, j'habitais à Paris.
(?) 明日は一日中雨が降っているでしょう。

 

3.

行為と状態(4)

上の④の問題は、もう一つの重要ポイントに関連する。

すなわち、進行相の 非自立性:状況(<歴史>)への「投錨」の必要性

進行相に関する、temporal frame説:「投錨点」=基準時(点)time of reference, reference point

基準時は幅があってもよい.。

 

4.

行為と状態(5)

英語の進行形の3つの特徴づけ:持続の表現、限定された持続の表現、非完結性

しかし、②④で指摘された「非有界的表現である」ことと、「限定された持続の表現である」こととは 矛盾しないのだろうか?という疑問(「限定された非有界性」という矛盾?)。

 

「限定された非有界性」のモデルとして、感覚体験はどうか?

感覚と観察のつながり。

進行相を観察の表現として説明しようとする論者:Jacobus van der Laan 他

そのような論者は同時に、進行相が注意、関心、集中(没頭)、感情といったファクターの表現となることをも重視する傾向にある。

あるいは、進行相を「集注叙述」の形式として解釈する論者(細江逸記)。

以前見たようにウィトゲンシュタイン的には、感覚、注意、集中(没頭)、感情、これらは主に「経験Erlebnis」というカテゴリーに属するだろう。そして、<真の持続>を持つ(cf. RPPⅠ836,RPPⅡ63,148)。

<真の持続>と<注意>との関連に留意すること。(cf. RPPⅡ50,Z81)

これらのファクターの感覚経験への類似/差異を踏まえつつ、進行相との関りを解明するという課題。

 

5.

行為と状態(6)(7)

進行相(この場合、半過去)を 観察体験の記述 に類比する傾向は、(日本の?)フランス語学で根強い。

ただし、英語学でも、「観察」につながるような、進行相の特徴づけが存在する:

「内的観点inside view」「内から眺める」

「視点」「眺める」は「比喩」か?

 

 「進行相の、観察体験の記述への類比」は進行相の本質の解釈として適切なのか?

 

6.

叙想的テンス、叙想的アスペクト(1)(2)

フランス語学で「観察体験の記述への類比」が根強い理由の推測から、Je t'attendais型の半過去その他の「特殊用法」について導入。

それをきっかけとして、さらに「叙想的テンス」の概念を導入。

 「叙想的テンス」「ムードのタ」:フランス語と日本語に、類似した用法が存在する。

 

「叙想的アスペクト」概念の導入

 

7.

叙想的テンスと状態性

半過去の「特殊用法」と日本語の「叙想的テンス」との類似性:

ここでは、「過去」というテンス的側面のみが効いているのか?

そうではないことが確認される。すなわち、「状態性」というアスペクト的側面が深くかかわっていることが。

 

※ここでは解説できなかったが、「叙想的テンス」には、「状態性」をもつ事象 と 主体の経験や関心 との交わり、という問題が潜んでいる。

(cf. 金水敏(2001)、「テンスと情報」)

 

 8.

説明のアスペクトに向かって

日本語の「のだ」の機能の話をきっかけとして、説明関連づけ前景/背景、という関連する概念を導入した。

 

叙想的アスペクトとしての「説明の半過去」

 

9.

「関連づけ」と半過去

「関連」の存在は、半過去使用の条件か?:必ずしもそうではないはずである。

では、「半過去は背景の時制である」(ヴァインリヒ)という主張はどうか?

 

10.

説明とimperfective aspect

説明に現れるimperfective aspect:その特徴は何か?どのような場合にimperfective aspectが選好されるのか?

「行為解説の進行形」(英語)

「説明」と「背景」とのゆるい関連

 

11.

前景と背景

ヴァインリヒ『時制論』における、半過去の特徴づけ:「半過去は背景の時制」

 

12.

背景と視点

回帰する問い:視点、観察、注意、と進行相

 

「背景」「説明」「関連」といった概念のあいまいさ

 

13.

属性付与と状態化

「半過去の基本的機能は、属性付与である」という説(春木仁孝

半過去と基準時の照応関係:イレギュラーな場合もあり

それらをまとめて説明しようとする「属性付与説」

半過去は、動詞を「状態化」する。

 

14.

持続と認識

半過去の成り立ちに関する春木の主張:

「半過去の使用時には発話空間とは別の認識空間としての過去空間が構成されている」

半過去の「属性付与」=「状態化」機能は、「認識空間」の成立に根拠を持つ?

半過去の表す事象の持続は認識というファクターに由来する、と見なすべきかどうか?

 

問いの転換へ

 

15.

ここまでざっとメモしてきたが、全体を通したキーコンセプトを挙げるとすれば、次の3つになるだろう。

 

持続、体験、説明

 

進行相においてこの3つがどのように関っているか、という問題意識を導入するために、このような錯綜した道をたどってきた。

 

確かに、「持続」と「体験」(観察体験や注意の体験等)の関りについては、幾度も話に出たし、問題にもされた。

その多くは、「進行相と体験記述との類比」への問いという、繰り返される主題の中に集約されている。

 

しかし、その2つと「説明」との関りについてはどうか?

先に進むためには、「説明」の周辺を、さらに掘り下げておかなければならないだろう。