(前回より続く)
1.
次に、文法的アスペクトgrammatical aspect について。
動詞の語尾変化のような、文法的なdeviceによって示されるアスペクトを文法的アスペクトと呼んでいる。日本語のル形/テイル形の対比は、その例である。
文法的アスペクトは、しばしば<viewpoint aspect>と呼ばれる(例えば、Carlota S. Smith, The Parameter of Aspect)。
この背景には、「アスペクトとは、事態の内部の時間的な構成 を視る様々な仕方のことである aspects are different ways of viewing the internal temporal constituency of a situation」(Comrie, Aspect, p3)のようなアスペクト観が存在する。
だが、当ブログは、<viewpoint aspect>を用いずに、<文法的アスペクトgrammatical aspect>で通す。
<view>を用いたアスペクトの定義は、Klein も指摘するように、あまりにも"metaphorical" であり、なおかつそれについて深く反省されていないようだから(cf. Wolfgang Klein, Time in Language,p27)。
そもそも、当ブログの問題意識の一つは、「imperfective aspect の説明に、”視る”ことの比喩が頻出するのはなぜか?それは何か本質的なものを示しているのか?」であった(”行為と状態(7)”)。
2.
通常、文のアスペクトを決定する要因として、上述の、語彙的アスペクトと文法的アスペクトとが挙げられる。
しかし、次のような文を考えてみよう。
a. Bill knew the truth.
b. Suddenly Bill knew the truth.
(文例は、Smith, The parameter of Aspect, 2.1より)
"Bill knew the truth" の部分は全く同一であるにもかかわらず、a. のアスペクトはstative、b. はachievementである。
このように、副詞(句)もアスペクトを左右する。
また、次の文を考えよう。
c. 太郎は、本土にある中学校に連絡船で行った。
c. を、2通りのコンテクストに置いてみよう。
①その当時、島と本土との間に橋はなかった。太郎は、本土にある中学校に連絡船で行った。
②その朝、交通事故で、島と本土との間の橋は通行止めとなった。太郎は、本土にある中学校に連絡船で行った。
①では、c.は習慣相に読まれるであろうが、②ではperfectiveに読まれるだろう。もちろん、c. は2つの場合で同一の字面の文である。
このように、コンテクストがアスペクトを決定する要因となる。
今、このようなアスペクトの変容について立ち入って検討する余裕はない。
そこで、これらの要因(副詞句、コンテクスト)の影響を、便宜的に、<文脈的アスペクトcontextual aspect>と呼んでおこう。つまり、語彙的アスペクト、文法的アスペクトの要因以外からの影響を便宜的に<文脈的アスペクト>の名で呼ぶこととする。(ただし、そうすることで本来区別すべきものを一緒にしている可能性は低くないだろうけれど。)
3.
以上により、
①語彙的アスペクトlexical aspect ⇐ verb constellation
∣
②文法的アスペクトgrammatical aspect ⇐ grammatical morpheme, etc.
∣
③文脈的アスペクトcontextual aspect ⇐ context, adverbial
∣
という、アスペクトの階層的発現について確認した。これらの諸階層が相互に作用して、文のアスペクトは決定される、としておこう。