Topic time とテンス・アスペクト(5)

(前回より続く)

⑥Klein の手法

この書、Time in Languiage の全編を通して、<意味meaning含意implicature>の区別が、議論の足場として効果的に使用されている。(ただし、Kleinは、この意味での<meaning>の代わりに<lexical content>を使用している。)

言葉および 言葉が集成される仕方ーすなわちlexical contentーから由来するものと、その他の何らかの源泉から由来するものとを区別することが重要である(TL, p72)

大まかに言うと、lexical content から得られる知識(情報)は、言葉の意味に含まれた知識である。(Klein 自身の言葉ではないが、)その意味で「分析的」である。これに対し、言葉の含意に由来する知識は、経験的、事実的、推定的である。

Klein は、後者の知識を、多くの場合、"world knowledge" と呼ぶ。

ある表現のlexical content に属するものは何であり、世界に関する事実的知識に属するものは何であるのか?(TL, p74)

これを決定する確実な方法は見当たらないことを認めつつ、Klein は2つの格率に従って線引きを行おうとする。

Maxim of minimality:lexical content には、可能な限り、少ない内容のみを含めよ!

Maxim of contrast:ある特徴について、それなしでは、他の表現とその表現とをlexical contentにおいて区別できなくなる場合には、それをlexical content に含めよ!(cf. TL, p75)

 

<meaning / implicature>の区別は、Grice以来、言語学において一般的となっているようだが、その仕方において研究者によるどんな違いがあるか、残念ながら筆者はよく知らない。

Klein のこの書について言うなら、この区別を支える主導的なアイデアは次のようである。

・situation と、その言語的記述とは区別される。(TL, p9)

・ある記述、発話は、あるsituationの、部分的な(選択的な)記述である。一般にsituation は、記述のlexical meaningの内にexplicit に表現された特徴の他に、explicitには表現されないままのimplicit な特徴をも持っている。後者は、必要があれば、修飾句等によってexplicitに表現されることが可能である。(p10)

・ある記述(発話)を受け取った個々の聞き手は、自分の持つ経験的な知識(world knowledge)から、いくつかの意味的特徴をそこに追加して、それを理解する(cf. p11)。それが発話の意味における<implicature> のレベルである。

 

Klein がこの区別を活用する仕方の例として、前回見た、lexical content と「境界」の問題を、少し見ておくことにしよう。

 

3.

ある発話utteranceは、あるsituationの部分的な記述である。発話は、このsituationのある特徴を特定するが、すべての特徴を、ではない。(TL, p10)

あるsituation の時間的特徴についても、そのことが当てはまる。次の例で考えよう。

 (8) Napoleon slept on the floor.

このsituationは、'Napoleon slept on the floor' のlexical meaning が記述するよりもずっと多くの性質を備えている、そう考えてよかろう。例えば、始まりと終わり、すなわち、「左の境界」、「右の境界」を持っている、と。しかし、(8)は、それら境界については触れない。また、このsituationは、ある範囲で持続する。だが、持続についても何も言われていない。(TL, p10)

すなわち、このsituation(Vendler分類ではActivityに属する)の時間的境界や持続の様態は、lexical contentにではなく、world knowledge に属する。必要があれば、"for two minutes" や"from six to seven o'clock" のような時間的副詞句によって、その様態を明示することができる(TL. p10,74)。

 

Klein は、Vendler分類でいうAchievement, Accomplishment について、この<lexical content / world knowledge> の区別に依りつつ、独自の見解に至っている。それについて簡単に見ておきたい。

Klein によれば、Achievement, Accomplishment はどちらも、前回に見た2-State lexical content に属する。すなわち、相反する2つの「状態」、<source state> と<target state> が、「境界」を介して時間的に前後に連なる構造を持つ。

ここで気になるのが、「境界」である。普通、境界には幅がある。「境界」の幅とは、source state からtarget state に至る「移行transition」の期間の長さと言い換えられる。

Achievement, Accomplishment は、ともに2-State lexical content であることが本質である。それゆえ、「境界」(「移行」)を持つことは、それらの本質に組み込まれている。しかし、それらのlexical content は、「移行」の様態、例えばその長さについては何も語らない、とklein は主張する。あるいは、移行が急激に行われるのか、なだらかに行われるのか、一瞬にか、長い時間をかけてか、についても。

"to find" という、伝統的に瞬間的punctual と見なされてきた行為について、そのような通念と相反する用法の例をいくつか検討した後、Klein は次のように述べる。

従って、移行の性格-急激に、徐々に、段階的に、などーを、to find のlexicai content に属するものと考えるべきではない。そのような性格は、見出される対象が何であるかに、まったく左右されるからだ(多分、他の要因にも左右されるだろうが)。その移行が急激であるか否か、われわれはそれをworld knowledge によって知る。つまり、伝統的に「瞬間性」と呼ばれた性質は、lexical content に属するのでなく、world knowledge の一部なのである。(TL, p88)

Klein のこのような立場は、Vendler流の4分法から離れて、Achievement とAccomplishment の境界を(事実に左右される経験的なものとして)あいまいにする方向に向かうだろう。

 

【追記】

前回、Klein における"clause-type lexical content" は、副詞句等をも含められることで、Smith の"verb constellation" と異なる、と記した。

その後、Time in Language を見直したところ、Klein が、「時間化」を受ける最も基礎的なlexical content として、"elementary clause"という概念を想定していることを確認した(cf. TL, p37)。"elementary clause" は、述語predicateと項argumentsから成るとされるから、正にSmith の"verb constellation" に相当している。