アスペクト、テンス、モーダリティ

動態動詞ル形の用法について(12)

1. 山岡政紀は、「可能動詞文」、すなわち「可能動詞」の文について、 …可能動詞文は、動詞文でありながら動作性が捨象されており、しかも必ず有題文となり、基本的に〈属性叙述〉である。 (山岡「可能動詞の語彙と文法的特徴」p10) と述べている。山岡が…

動態動詞ル形の用法について(11)

1. 前回に続いて、問題の動詞文が成り立つ条件について見てゆく。ル形が現在の事象を表すような可能表現の種類は多岐にわたるが、ここでは当ブログの関心から、可能態(可能形)中心に見てゆき、それとの絡みで自発態に触れたい。 まず、動詞が可能態(可能…

動態動詞ル形の用法について(10)

1. 《Ⅶ 可能態・自発態》のル形用法について。 ここでも、以前紹介したカテゴリーとの中間例を見ることから始めたい。 山岡は、前回見た<感情表出動詞>の例文の中に、次のような文を、<知覚表出>として含めている(「日本語の述語と文機能の研究」p209-1…

動態動詞ル形の用法について(9)

1. 続いて、「一人称ル形で話者の感情や内的感覚を表出する動詞」について見てゆく。 鈴木重幸「現代日本語動詞のテンス」、高橋太郎『現代日本語動詞のアスペクトとテンス』に挙げられた文例より、 ・「市川君、そう君のように言うから困る。~」 ・「登喜…

動態動詞ル形の用法について(8)

1. 続いて、 Ⅵ 知覚・思考・内的状態の表出 に移る。 Ⅴに属する、態度表明のル形については、前回見た。ここではまず、ⅤとⅥを連続的に捉える。つまり、態度表明のル形とⅥの中間例を見ることにより、Ⅵ全体に向けた導入とする。 鈴木重幸は、(前回取り上げた…

動態動詞ル形の用法について(7)

1. ここまで、鈴木重幸の謂う「非アクチュアルな現在」を表現するル形について見てきた(cf. 2023-11-27)。続いて、「アクチュアルな現在」の事象を表すル形の用法に入る。 高橋太郎によれば、現代日本語動詞の完成相非過去形(すなわちル形)は、次のような…

動態動詞ル形の用法について(6)

1. 続いて、 ⑥履歴属性叙述のル形文 益岡隆志は、属性叙述の一種として、「履歴属性」というカテゴリーを立てた。それは事象から派生する属性の一つ、「本来的に事象を表す動詞文(動詞述語文)が属性を派生する(含意する)」場合の一種である。 もう一つの…

動態動詞ル形の用法について(5)

1. 続いて、 ③「虚構移動文」(cf. 三原健一、『日本語構文大全Ⅰ』p255~) この構文は、道路、山地等を主語にとる。 中国自動車道は、吹田を起点に、しばらく市街地を走る。 金剛山地は大阪府と奈良県の境を南北に走る。 「虚構移動」と呼ばれるのは、道や…

動態動詞ル形の用法について(4)

1. Ⅱ属性叙述 に含まれる、特徴的な構文や使用について見てゆく。 次に挙げる2つは、あるいは、Ⅵの「知覚・思考・内的状態の表出 」に分類することも可能かもしれない。ⅡとⅥとの関連を顕在的に示す例でもあろう。 ①<AはBの味(香り、におい、音、肌触り、…

動態動詞ル形の用法について(3)

1. Ⅱ属性叙述 の用法に移る。 「属性叙述」については、以前簡単に紹介したが、「属性」の時間的性格については、関連する益岡隆志による属性の分類を紹介するに止め、正面からは論じなかった。 益岡による属性のタイプ A 本来的な属性 A1 カテゴリー属性 A2…

動態動詞ル形の用法について(2)

1. 前回、ル形の変則的用法の分類として、次を挙げた。 Ⅰ 反復や習慣を表す用法Ⅱ 属性叙述Ⅲ 一般化して表現する用法Ⅳ 実況解説的用法ⅴ 遂行動詞や態度表明の動詞Ⅵ 知覚・思考・内的状態の表出Ⅶ 可能態、自発態 以下、順に見てゆきたい。まずは、細かい部分に…

動態動詞ル形の用法について(1)

1. 第四種動詞の問題から、time of orientation(To)の不定化の話題に移っている。前回触れた、日本語 動態動詞(非−状態動詞)の「変則的用法」について見てゆく。ここで「変則的」と呼ぶものは、ル形で未来の事象を表現する、という一般的用法から外れたも…

第四種動詞の周辺(14)

1. 第四種動詞の周辺(11) で述べたように、「はなしあい」のテクスト(cf. 工藤真由美)では、time of orientation(To)=time of utterance(TU) というdefault解釈(phono-deictic解釈)の圧力が強く、発話のテンスは、それに従って解釈されるのが通常である…

第四種動詞の周辺(13)

1. 影山や西田が挙げた、第四種動詞他のル形用法は、漢文の読み下し文を思わせるところがある。特に、西田(5)の例は、過去の事象を述べながらもテンスが現在化されている点で、そう感じさせる。 (5) 菊池序光(生没年不詳) 江戸時代後期の装剣金工。菊池序…

第四種動詞の周辺(12)

1. Wolfgang Klein, Time in Language でのpresent tense の定義は、「time of utterance(TU) が topic time(TT) に含まれていること」であった。 topic time の長さが様々であり得ることを根拠の一つとして、Klein は、歴史的現在のような変則的なpresrnt t…

第四種動詞の周辺(11)

1. Time of utterance(TU)を根本概念とすることの問題点は、手紙文を考えてみればわかりやすい。手書きの文章の例でもよいのだが、「音声年賀状」を例に取ろう。 A氏が、12月20日に「新年あけましておめでとうございます」と発話・録音し、クラウドストレー…

第四種動詞の周辺(10)

1. 習慣相の説明のところで、Kleinの "habitual"という概念を紹介し、そのポイントが複数のTopic time(TT)を表現する点にあることを説明した。 そこには、まだ不明瞭な部分が残っている。Time of utterance(TU) と、それら複数のTTとの関係である。 habitual…

第四種動詞の周辺(9)

1. 野田高広は、広義での習慣を表わしながら、現在時制でル形の容認度が低い、つまりル形習慣文を取りにくい動詞群の存在を指摘している。例としては、<通う、付き合う、暮らす、住む、定期購読する、営む、愛用する、養う>等である。(cf. 野田「現代日本…

第四種動詞の周辺(8)

1. ここまで扱ってきた「イタリア北部にはアルプスの山々がそびえる。」「南北に約750㎞、東西約120㎞のエリアに26の環礁が浮かぶ。」といった文は、習慣を表わす文とは異なり、繰り返される事象を表現するものではない。そのためか、西田論文には、これらの…

第四種動詞の周辺(7)

1. 西田光一「恒常的状態を表す日本語動詞の語用論的分析」の内容について見てゆく。 西田が挙げた例を再掲する。(p1.下線は西田による) (1) 駒ケ岳<雫石町> 火口内には女岳の中央火口丘と爆発跡がみられる。火口壁の外側、男岳北方には阿弥陀池を挟んで…

第四種動詞の周辺(6)

1. まず、「属性叙述」とは、どのようなものか? 文による叙述に2つの対立的な様式が認められるという見方を、国語学/日本語学において導入したのは、佐久間鼎である。佐久間は、叙述の働きをする文を「いひたて」の文 と呼び、その内に、「物語り文」・「品…

第四種動詞の周辺(5)

1. 通常、第四種動詞は、文末ではつねにテイル形で用いられる、とされる。 しかし、この一般的制約に反して、第四種動詞、例えば「そびえる」がル形で用いられる場合があることを、影山は指摘する。実際にインターネットで検索した例として、次のような文章…

第四種動詞の周辺(4)

1. 第四種動詞とテイル形の問題に戻る。 第四種動詞におけるテイル形の機能を、「他者との対比」とする考え方の問題点については既に見た。 それは例えば、第四種動詞がル形で用いられる場合もあって、そこでも「対比」の機能の面ではテイル形で用いられる場…

日本語動詞の自他対応、様態vs.結果

1. 日本語の動詞の自他対応について、佐藤琢三の研究をもとに見ておく。 2つの動詞が自他対応をなすことは、次のように定義される。 (佐藤琢三『自動詞と他動詞の意味論』p170) a. 意味的条件:自動詞文と他動詞文が同一の事態の側面を叙述していると解釈可…

日本語における態voice の概念

1. 態voiceと言われて、すぐに思い浮かぶのは、能動態、受動態の対であるが、他にも様々な態が存在する。態とはそもそも何だろうか? ここでも日本語学から学んでゆくが、ごく基本的なレベルでの確認に留める。 寺村秀夫は、態を、「補語の格と相関関係にある…

能動詞と所動詞

1. 前回、第四種動詞が文末でル形で使用されている例を引用して、いずれも「書きことば」であって、具体的他者を前にした発話ではないことに注意を促した( 1. のc.)。元々、当ブログが第四種動詞の話題に入っていったのは、これらの例にも示されている、「テ…

第四種動詞の周辺(3)

1. 属性叙述との関わりに進む前に、もう少し第四種動詞の周りをゆるりと廻っておこう。 前回のテーマ、第四種動詞に関する寺村の観点のポイントを簡潔にまとめるなら、 第四種動詞とは、専ら、他者との対比を表すテイル形で使用される動詞である ということ…

第四種動詞の周辺(2)

1. 「第四種動詞」に対する寺村秀夫のアプローチは、金田一春彦とは違っており、それを語彙的アスペクトの一カテゴリーとして立てることから始めてはいない。 テイル形の機能を基本に据え、動作継続や結果残存とは別の方向への拡張として、「形容詞的な用法…

第四種動詞の周辺(1)

1. このところ、迂回に次ぐ迂回、蛇行に次ぐ蛇行で、全体的な話の筋が非常に捉えにくくなっているので整理しておこう。 例の、微積分に類似した「言語」(記号系)を構成した狙いについて、進行相の文に「解釈の構造」を見て取ることにある、と主張した。そ…

かたり / はなしあい

1. 前々回まで見てきたように、~タと~テイルには、文の中で互いに交替してもその意味が損なわれないような、共同の領域が存在する。テイルの「過去的用法」(井上優)と呼ばれる領域がそれである。 次のような例が挙げられよう。 「このところ世界各国で著名…