2023-01-01から1年間の記事一覧

動態動詞ル形の用法について(1)

1. 第四種動詞の問題から、time of orientation(To)の不定化の話題に移っている。前回触れた、日本語 動態動詞(非−状態動詞)の「変則的用法」について見てゆく。ここで「変則的」と呼ぶものは、ル形で未来の事象を表現する、という一般的用法から外れたも…

第四種動詞の周辺(14)

1. 第四種動詞の周辺(11) で述べたように、「はなしあい」のテクスト(cf. 工藤真由美)では、time of orientation(To)=time of utterance(TU) というdefault解釈(phono-deictic解釈)の圧力が強く、発話のテンスは、それに従って解釈されるのが通常である…

第四種動詞の周辺(13)

1. 影山や西田が挙げた、第四種動詞他のル形用法は、漢文の読み下し文を思わせるところがある。特に、西田(5)の例は、過去の事象を述べながらもテンスが現在化されている点で、そう感じさせる。 (5) 菊池序光(生没年不詳) 江戸時代後期の装剣金工。菊池序…

第四種動詞の周辺(12)

1. Wolfgang Klein, Time in Language でのpresent tense の定義は、「time of utterance(TU) が topic time(TT) に含まれていること」であった。 topic time の長さが様々であり得ることを根拠の一つとして、Klein は、歴史的現在のような変則的なpresrnt t…

第四種動詞の周辺(11)

1. Time of utterance(TU)を根本概念とすることの問題点は、手紙文を考えてみればわかりやすい。手書きの文章の例でもよいのだが、「音声年賀状」を例に取ろう。 A氏が、12月20日に「新年あけましておめでとうございます」と発話・録音し、クラウドストレー…

第四種動詞の周辺(10)

1. 習慣相の説明のところで、Kleinの "habitual"という概念を紹介し、そのポイントが複数のTopic time(TT)を表現する点にあることを説明した。 そこには、まだ不明瞭な部分が残っている。Time of utterance(TU) と、それら複数のTTとの関係である。 habitual…

第四種動詞の周辺(9)

1. 野田高広は、広義での習慣を表わしながら、現在時制でル形の容認度が低い、つまりル形習慣文を取りにくい動詞群の存在を指摘している。例としては、<通う、付き合う、暮らす、住む、定期購読する、営む、愛用する、養う>等である。(cf. 野田「現代日本…

第四種動詞の周辺(8)

1. ここまで扱ってきた「イタリア北部にはアルプスの山々がそびえる。」「南北に約750㎞、東西約120㎞のエリアに26の環礁が浮かぶ。」といった文は、習慣を表わす文とは異なり、繰り返される事象を表現するものではない。そのためか、西田論文には、これらの…

第四種動詞の周辺(7)

1. 西田光一「恒常的状態を表す日本語動詞の語用論的分析」の内容について見てゆく。 西田が挙げた例を再掲する。(p1.下線は西田による) (1) 駒ケ岳<雫石町> 火口内には女岳の中央火口丘と爆発跡がみられる。火口壁の外側、男岳北方には阿弥陀池を挟んで…

第四種動詞の周辺(6)

1. まず、「属性叙述」とは、どのようなものか? 文による叙述に2つの対立的な様式が認められるという見方を、国語学/日本語学において導入したのは、佐久間鼎である。佐久間は、叙述の働きをする文を「いひたて」の文 と呼び、その内に、「物語り文」・「品…

第四種動詞の周辺(5)

1. 通常、第四種動詞は、文末ではつねにテイル形で用いられる、とされる。 しかし、この一般的制約に反して、第四種動詞、例えば「そびえる」がル形で用いられる場合があることを、影山は指摘する。実際にインターネットで検索した例として、次のような文章…

第四種動詞の周辺(4)

1. 第四種動詞とテイル形の問題に戻る。 第四種動詞におけるテイル形の機能を、「他者との対比」とする考え方の問題点については既に見た。 それは例えば、第四種動詞がル形で用いられる場合もあって、そこでも「対比」の機能の面ではテイル形で用いられる場…

日本語動詞の自他対応、様態vs.結果

1. 日本語の動詞の自他対応について、佐藤琢三の研究をもとに見ておく。 2つの動詞が自他対応をなすことは、次のように定義される。 (佐藤琢三『自動詞と他動詞の意味論』p170) a. 意味的条件:自動詞文と他動詞文が同一の事態の側面を叙述していると解釈可…

日本語における態voice の概念

1. 態voiceと言われて、すぐに思い浮かぶのは、能動態、受動態の対であるが、他にも様々な態が存在する。態とはそもそも何だろうか? ここでも日本語学から学んでゆくが、ごく基本的なレベルでの確認に留める。 寺村秀夫は、態を、「補語の格と相関関係にある…

能動詞と所動詞

1. 前回、第四種動詞が文末でル形で使用されている例を引用して、いずれも「書きことば」であって、具体的他者を前にした発話ではないことに注意を促した( 1. のc.)。元々、当ブログが第四種動詞の話題に入っていったのは、これらの例にも示されている、「テ…

第四種動詞の周辺(3)

1. 属性叙述との関わりに進む前に、もう少し第四種動詞の周りをゆるりと廻っておこう。 前回のテーマ、第四種動詞に関する寺村の観点のポイントを簡潔にまとめるなら、 第四種動詞とは、専ら、他者との対比を表すテイル形で使用される動詞である ということ…

第四種動詞の周辺(2)

1. 「第四種動詞」に対する寺村秀夫のアプローチは、金田一春彦とは違っており、それを語彙的アスペクトの一カテゴリーとして立てることから始めてはいない。 テイル形の機能を基本に据え、動作継続や結果残存とは別の方向への拡張として、「形容詞的な用法…

第四種動詞の周辺(1)

1. このところ、迂回に次ぐ迂回、蛇行に次ぐ蛇行で、全体的な話の筋が非常に捉えにくくなっているので整理しておこう。 例の、微積分に類似した「言語」(記号系)を構成した狙いについて、進行相の文に「解釈の構造」を見て取ることにある、と主張した。そ…

かたり / はなしあい

1. 前々回まで見てきたように、~タと~テイルには、文の中で互いに交替してもその意味が損なわれないような、共同の領域が存在する。テイルの「過去的用法」(井上優)と呼ばれる領域がそれである。 次のような例が挙げられよう。 「このところ世界各国で著名…

テイル形と習慣用法

1. ル形 / テイル形に関しては、習慣相においても、使い分けるべき場合とどちらも使用可能な場合とが混在している。 これについて、詳細な解明は別として、基本的な構造を確認しておく必要がある。 2. 以前、テイル形で現在継続している習慣を表わすのは、テ…

タ形とパーフェクト、実現想定区間

1. 前回まで、寺村、井上の研究を参照することで、日本語のテイル形の意味を統一的に捉えて「解釈の構造」を見て取る可能性 について説明してきた。 なぜ「解釈の構造」を強調するのか?それは、以前説明したように、テイル形(あるいは進行相やimperfective…

テイル形と「統括主題」

1. 続いて、「シタ」に交換できる、「シテイル」の過去テンス用法(井上は「過去的用法」と呼ぶ)について見てゆく。 その場合、「シタ」が使えるわけだから、事象の経過を、話し手は把握できているはずである(前々回を参照)。 それにも関わらず、「シテイ…

テイル形の記録用法

1. 引き続き、井上の論文(「現代日本語の「タ」」に依りながら、タ形とテイル形の使用の重なり、その条件等について見てゆく。 テイル形には「ていた」という過去形があるが、それとは別に、「ている」の形で、テンス的には過去とみなせる用法が存在する。…

タ形の使用条件

1. これから触れる、井上優「現代日本語の「タ」」は、三つの問題に答えようとする論文である。 <問題1> 過去の出来事を述べるのに「シタ」「シテイル」という二つの言語的手段があるということはどういうことか? <問題2> 「シタ」に、パーフェクト的…

テイル形とパーフェクト

1. 前回、寺村秀夫を参照して、日本語のテイル形の機能として、次の5つを挙げた。 a.動作継続 b.結果残存 c.習慣・反復 d.回顧的用法 e.第四種動詞の語尾 寺村が、d.回顧的用法として挙げた例は、 その年、東京には二度大雪が降っている あの人はたくさんの…

テイル形と 解釈の構造

1. 「微積分への類比」を試みた主な狙いは、進行相の文が持つ、説明の機能や予測を引き出す機能について、その構造を見えやすくすることにある。 進行相の文を ある「解釈の構造」を備えたものと仮構してみるなら、それらの機能はこの構造から理解されるであ…

a toy calculus of actions(10):変化率≠部分

1. 前回予告したように、進行相の特徴のいくつか(cf. "a toy calculus(6)")について、微積分へ類比する観点から眺めてみよう。 まず注目したいのは、 ④「期間を限定する副詞句と共起しにくい」 という特徴である。 一般に「期間を限定する副詞句」と呼べるも…