「説明」の周辺(35):まとめに向けてのメモ

1.

 ウィトゲンシュタインの「数学の基礎」に関する考察を読解してゆく内に、

目的=終点endを持ち、遂行に時間を要する行為を表す動詞(Vendlerの分類でのaccomplishment verb)の、imperfectiveな使用の問題

に関心を見出して、ここまで来ている。

ただし、途中の道程は非常に見通しの悪いものだった。

途中一度整理を試みたが、再度、まとめの試みをすべきかもしれない。

しかしそれを筋道立てて書く余裕はないので、粗いメモのかたちで残しておきたい。

 

a.
「計算する」は、一般的には、telicな動詞である。
telicな動詞をimperfective aspectで使用することは、何をしているのか?という問題。
b. 
動詞のimperfective表現と、状態動詞との比較(“状態をめぐって”
「状態」における「持続」の概念(“閃きと停留”) 
c. 
進行相の考察:進行形、半過去、テイル/テイタ(“行為と状態(2)”
進行相、半過去と非有界性unboundness(“行為と状態(3)”
temporal frame説、基準時への「投錨」(“行為と状態(4)”
英語進行形の特徴づけ:持続性、一時性(限定性)、未完了性
限定性と非‐有界性との矛盾?(“行為と状態(5)”
感覚体験との類比:進行形は、あたかも観察しているかのように 描出する。ただし「観察されたものとして」ではなく。(“行為と状態(5)”
注意集中、「認識空間」(“行為と状態(6)”
「感覚」、「注意」は、ともに体験のカテゴリーに属す。
d.
「叙想的テンス」という現象(“叙想的テンス、叙想的アスペクト(1), (2)”)
「叙想的テンス」とimperfective aspectとの関り、状態性(“叙想的テンスと状態性”
e.
関連付け、説明と 比較、背景、理由づけ(“説明とimperfective aspect”“前景と背景”
f. 
再び、imperfective aspectによる「状態化」について (“属性付与と状態化”)
「持続」という特性は「体験」とのつながりから?(“持続と認識”
g. 
議論の底に横たわる概念:持続、体験、説明
「説明」について更なる掘り下げの必要性(”3つのコンセプト”
h. 
「美学的説明」へのアプローチ(“「説明」の周辺(1)”
意図的行為の説明 理由と原因
「計算」というモデル(“「説明」の周辺(2)”
「メカニズム」というモデル:事象の道筋、経過、予想可能性。経験的過程と必然的推移とを結びつけるもの(“「説明」の周辺(3)”
i.
理由の説明と比較、正当化、
仮想される「体験」:「意味する」、「・・・として見る」
 j. 
理由づけと 部分ー全体、手段ー目的、原因ー結果関係(“「説明」の周辺(8)”
それぞれの重なり合い
理由は必ずしも過程(出来事)に関わらない
k.  
美学的説明:並べて 見せる 比較する(“「説明」の周辺(7)”
合意形成、共同注意(“「説明」の周辺(14)(15)”
技術をつなぐ
l. 
 美学的対象としての表情Ausdruck, expression(“「説明」の周辺(12)”
対象の「表情」と 主体の「表現」(“「説明」の周辺(13)”) 
m. 
美学的体験としてのぴったり合うpassen,fit、かちっとくるclick 瞬時的体験 (“「説明」の周辺(23)”
n.  
表情の一瞥性(“「説明」の周辺(17)”
予測を通して、瞬間(一瞥)と過程(出来事)が結びつく(“「説明」の周辺(20)”
情動、「経過」の重要性(“「説明」の周辺(21)”
理解の一瞥性(“「説明」の周辺(25)”
一瞥的体験の特質、一瞥性と像、表出(“「説明」の周辺(24)”)
o. 
表情体験としての言葉の意味体験、語感、雰囲気(“「説明」の周辺(26)”
表情と比較(“「説明」の周辺(28)”
反射的比較 病的伝達(“「説明」の周辺(16)”
「ぴったり合う」と 比較(“「説明」の周辺(27)”

 p.

いつ、合う、と言うのか?(“「説明」の周辺(31)”)(“「説明」の周辺(32)”
志向性を述べる文、目的を述べる文の使用
「像」による伝達ゲーム。imperfective aspectの使用というテーマの回帰(“「説明」の周辺(34)”

 

2.

さて、以上を、もう一回り大きな枠組みで見てみよう。

「数学の基礎」について読み解く前の準備段階で、アスペクト知覚論と「数学の基礎」論に共通するテーマを「2つの使用」問題に見出した。(“2つの使用”

その「2つの使用」の内の一方を、ウィトゲンシュタインは「無時間的 zeitlos, unzeitlich」使用とも呼んだ(cf. LPPⅠ152, RCⅠ1)。一般に、文法的命題や数学的命題が使用される仕方が、この「無時間的使用」である。「無時間的使用」は「時間的zeitlich使用」と対比される。

 

その後、「数学の基礎」論について見てゆく中で、「数学的命題の二重性格」を認識することになった。この「二重性格」は、「計算間違い」という概念が存在することにも関わりがある(上の記事を参照)。

上でも述べたように、「計算する」は telicな動詞であり、「計算間違い」について叙述することは、「計算」の終点(=目的)に到達されなかった状況で、当の「計算」行為について語る仕方の一つである。それは「計算」概念の「時間的使用」の一種である。

それ以外で一般に、telicな動詞を、その終点=目的に未到達の状況を叙述するのに用いる仕方として、その動詞をimperfective aspectで使用する仕方がある。

そこから当ブログの関心はimperfective aspectの文の使用の問題に移っていった。以降の歩みについては、今振り返ったばかりである。

 

その中で、imperfective aspectと関連づけ、という話題が浮上していることに注意しよう(上記のe. を参照)。この問題を重要視したからこそ、「説明」をキーコンセプトの一つとして挙げ、さらなる掘り下げを求めたのである。

 

一方「2つの使用」問題はどうなったか?

“「説明」の周辺(1)” で、「美学的説明」の概念を導入したとき、アスペクト知覚論、「数学の基礎」論との連関について示唆しておいた。「美学的説明」について解明する意図の一つは、「2つの使用」問題に補助光を当てることにあった。

 

 ただし続く記事では、「原因」との差異を通して「理由」の概念について解明することに進んだ。「理由づけ」は、「関連づけ」の一部であり、その代表とも言えよう。

表情の「比較」の問題が浮上してきたときにも、そのバックには「関連づけ」の問題が潜んでいた。(ただし、そこでは、主に「病的な比較」というネガティブな形態に注目したため、「ノーマルな比較」について論じることはできなかったが。)

 

そこで、「美学的説明」概念の探究に期待されるのは、「2つの使用」問題と、「imperfective aspectと関連づけ」問題、2つの問題系の連関を明らかにすることである。

 

では、「美学的説明」とは結局何だろうか。