1.
語彙的アスペクトの分類について、基本的な確認をしておく。
当ブログでは、Vendler による4分類を基に、これまで語彙的アスペクトについて語ってきた。まずは、それに補足すべき重要なアスペクトの種類は何か、が問題となる。
また個々の語彙的アスペクトについて、対立する性質の組み合わせによる特徴づけが行なわれてきた。それについても簡単に見ておこう。
2.
Vendlerの4類型を補足する動詞カテゴリーとして一般的なものは、<semelfactive>であろう。(cf. Smith, The Parameter of Aspect, 2.4.3)
<semelfactive>の例は、[blink],[cough],[knock at the door],[flap a wing]等。すなわち、「咳をする」「瞬きする」のような動作であり、
典型的なSemelfactive は、非常に素早く生じて、自身の生起のほかには何らの結果も生み出さないような出来事eventsである。
(......)
これらの出来事は、しばしば、一回限りでなく、連続して生じることがある。
(Smith, op. cit. 2.4.3)
この類型は、研究者によってさまざまな名で呼ばれてきた(cf. William Croft, Verbs,p40)。しかし、現在ポピュラーなのは、<semelfactive>という呼び名である。
3.
では、<semelfactive>を加えた、5類型が、どのように性格づけられるかを簡単に確認しておこう。
よくなされるのは、対立する時間的性質tenporal featureのどちらを有するか、3つの組について確定し、特徴づけることである。
その3つの組は、研究者によっていくらか異なるが、例えばSmithによれば、
[静的static/動的dynamic]
[持続的durative/瞬間的instantaneous]
である。(Smith, op. cit. 2.2)
[telic/atelic]の代わりに、それに類似した[bounded/unbounded]によって特徴づける文献も多いが、そこには様々な問題がある。その議論には深入りせず、ここでは[telic/atelic]を採用し、次の立場をとることにする。
・telicなsituationは、終点endpointを持つが、その終点は、そのsituationにとって本質的(内在的)intrinsicなものでなければならない。⇐<activity>,<semelfactive>における終点はintrinsicではないゆえに、両者はtelicではない。。
・Comrieは、telicなsituationは終点のみならずそこに至る過程を持つ(Aspect, p47)、ゆえに、瞬間的で、そのような過程のないachievement verbが表すsituationは atelicである、とする。だが、ここでは彼と異なって、過程の存在をtelicであることの必要条件としない。⇐<achievement>もtelicと見なす。
これ以上の説明は省くが、上の議論から、5つのカテゴリーを次のように特徴づけることができる。
[situations] [static/dynamic] [telic/atelic] [durative/instantaneous]
state static atelic durative
activity dynamic atelic durative
accomplishment dynamic telic durative
semelfactive dynamic atelic instantaneous
achievement dynamic telic instantaneous
細かいところで様々な問題はあるが、一応の目安としてこの図式を頭に入れておく。
4.
上の5つに加えてさらに、興味深いカテゴリーとして、William Croft が <runup achievement> (助走付きのachievement)あるいは<nonincremental accomplishment>(非漸増的accomplishment) と呼ぶものがある。
「彼は眠りつつあるHe's falling asleep」は持続的かつ有界的durative and bounded でありながら、Vendlerのaccomplishmentというカテゴリーが持つはずの重要な意味論的性質を欠いている。Vendlerのaccomplishmentは、結果となる状態へ向かう、時間を通して漸増的で計測可能な変化incremental,measurable changeから成るものである。そのことは、度量句Measure phraseを付加できることから判る。
(27)私は、新聞を1/4まで読んだところだ I have read a quarter of the way through the newspaper.
しかし、入眠や死に至る過程は、漸増的で計測可能な過程ではない。
(28)*彼女は1/4ほど死んだ/眠りに落ちた She has died/fallen asleep a quarter of the way.
(28)の例で、死あるいは入眠に終わる(かもしれない)過程を、漸増的で計測可能な、死あるいは眠りの程度表示によって記述することはできないーより正確に言えば、普通そのような表示にそって解釈することはできない。また、結末の状態へ向かう歩みも漸増的なものではない:そこへ至るまで、さまざまな状態の間を行ったり来たり揺れ動きながら進むこともある。
(......)また、パズルを解くこと(あるいは、定理を証明すること)も、コンピューターの修理に似て、いくつもの袋小路に迷いながら、そこから脱出して、解決へ(それがあるなら)行き当たったりするのである。
(......)私は独自に、このアスペクト的解釈を、runup achievement と名付けた(Croft 1988c.74):それは、非漸増的な過程であり、結果となる状態への瞬間的な移行へと通ずる。他のachievement とは、点的ではないnot punctualことで異なる。また、時間的な広がりを持つこと、結果の状態へ向かうことにおいてaccomplishment に似るが、その仕方は漸増的なものではない。(Croft, Verbs, P40-1)
ここで、パズルを解くことや、定理の証明が、runup achievement の例として挙げられていることに注意しよう。このカテゴリーに注目する意味は、また追々に明らかになるだろう。
Croftは、これを加えた6つを語彙的アスペクトの基本的カテゴリーとしている。ただし、彼はこの分類はシステマティックだとも網羅的だとも主張していない(ibid., p44-5)。また、<state>,<activity>,<achievement>については、さらに下位のカテゴリーへの分類を行っている(ibid.,2.2.3)。今後、必要があれば参照しよう。