1.
通常、第四種動詞は、文末ではつねにテイル形で用いられる、とされる。
しかし、この一般的制約に反して、第四種動詞、例えば「そびえる」がル形で用いられる場合があることを、影山は指摘する。実際にインターネットで検索した例として、次のような文章が引かれている(影山太郎「属性叙述の文法的意義」p24, in影山編『属性叙述の世界』)
イタリア北部にはアルプスの山々がそびえる。
そのゴルフコースの正面には富士山がそびえる。
支笏湖は、北側には恵庭岳、南側には風不死岳と樽前山がそびえる。
上海には数々の超高層ビルがそびえる。
影山は、これらの用例は、いずれも属性叙述に用いられていることを指摘する。そのことを、いくつかのテストによって示している。
ただし、上の用例には、見ただけですぐに分かる特徴が一つある。それは、いずれも「書きことば」によって記されたものであることだ。
(※<書きことば/話しことば>、という対立的概念を正確に定義することは簡単でないかもしれないが、便宜的に用いておく。)
すなわち、上の例文は
a. 属性叙述である
b. 書きことばである
という、2つの共通した特徴を持つ。
2.
b. の視点からこの種の用例について研究した論文に、西田光一「恒常的状態を表す日本語動詞の語用論的分析」がある。
その冒頭で引かれた例文を、ここに写して見よう。
(1) 駒ケ岳<雫石町> 火口内には女岳の中央火口丘と爆発跡がみられる。火口壁の外側、男岳北方には阿弥陀池を挟んで寄生火山女目岳がそびえる。(地名)
(2) 千手観音坐像(峰定寺)久寿元年(1154)創建の峰定寺の本尊。...丸顔が円勢風をよく継いで、円信作の可能性のある西大寺十一面観音像に似る。(美術)
(3) スリランカの南西約700㎞に浮かぶモルディブ共和国。南北に約750㎞、東西約120㎞のエリアに26の環礁が浮かぶ。島は約1200もあり、世界屈指の美しいホワイトサンドビーチと極上の海に囲まれている。(現代)
(4) 青山~表参道を歩く ハチの墓は青山墓地にある。ここは、地名の由来でもある青山家屋敷の跡地。岡本綺堂、尾崎紅葉、国木田独歩、斉藤茂吉、...吉田茂といった日本近代史に名を連ねる人々の墓が並ぶ。(東京)
(5) 菊池序光(生没年不詳) 江戸時代後期の装剣金工。菊池序克にまなび、のちに養子となって菊池家2代目をつぐ。柳川派の手彫りにすぐれる。江戸神田にすむ。本姓は中山。通称は伊右衛門。 (人名)
このように、西田の引いた例は、「そびえる」以外の第四種動詞に及んでいる。
これらについて西田は、次のように述べる。
この種の動詞の基本形(以下、ル形)は、主に書きことばで、特に事典、美術書、旅行ガイド等の見出し付解説文で使われ、恒常的状態を表す。この種のル形は、問題となる状態を写した写真と共によく使われる。例えば、(2)は、この千手観音坐像の写真に伴う解説文である。
アスペクトのみではなく、テンスも通例と異なる場合がある。すなわち、例文(5)のように、過去の人物の行状について述べられているのに過去テンスをとらない場合がある。
西田は(金田一の分類でいう)継続動詞についても、写真キャプション等で、これら第四種動詞のル形使用に似た用例が存在することに注意している。
つまり、この問題は第四種動詞に特殊のものではないであろう。
3.
影山が属性叙述と捉えた特徴を、西田は恒常的状態を表す用法(「恒常的用法」と呼ばれる)として捉える。西田論文のなかで、2つの捉え方の類似と相違についても触れられているが、しばらくは、2人が基本的に同じ特徴を捉えているものとして話を進める。
今後、a.b.の2つの視線が交叉するところに、第四種動詞の「〜テイル」の機能の問題を探ってゆく。途中、従来のテンス、アスペクト論において基本的な、"time of utterance" という概念の孕む問題が重要な論点となるだろう。