第四種動詞の周辺(12)

1.

Wolfgang Klein, Time in Language  でのpresent tense の定義は、「time of utterance(TU) が topic time(TT) に含まれていること」であった。

topic time の長さが様々であり得ることを根拠の一つとして、Klein は、歴史的現在のような変則的なpresrnt tense用法を、上の定義を堅持しつつ説明しようとした(cf.  Klein, Time in Language, p133-6)。その紹介は今は省くが、全体として疑問の余地の無いものになっているとは思えない。

さらに前々回見たように、"habitual"の説明においては、矛盾が生じているように見える。

そこで、テンスのさらに基礎にあるものに目を向けたい。

 

2.

テンスの機能の根本は、ある期間(time span,ここではTT)を、別の期間(通常はTU)との関係において時間的に位置づけることにある。

あるいは、テンスとは、このような一般的な関係づけの一部である。というのも、TTが関係づけられる相手は、TUと決まっているわけではないからである。

後者の期間が持つ機能は、いわゆる「投錨点」anchoring pointである。それが与えられる仕方には3通り、deictic, anaphoric, calendaric, がある( ibid., p121)。TUが投錨点となる場合は、関係づけの在り方の一部に過ぎない。

自然言語には、calendaricな投錨点に全般的に依存するテンス・システムをとるものはない。しかし、日付を記した碑文のように、calendaricな投錨点を利用するケースは多々存在する。)

一般的に、テンスとは、TUを投錨点としたdeicticな関係づけによるシステムと見なされている。しかし、TUが何時であるのか、疑問の余地なく受け入れられるのは、実際の会話の現場等に限られる。前回見たように、書かれた文では、投錨点は、TUではない場合がある。Huddleston&Pullum の The Cambridge Grammar of the English Language で、time of orientation(To)という概念が立てられた(p125)のは、それゆえである。

さらに、書かれた言葉においては、TUやToは結局のところ曖昧に終わることがある。

また、発信者、受信者も、そのことを了解した上で発信・受信する場合がある。例えば、小説の中の文章を考えてみればよい。

これらのことは、素朴な経験的事実であり、少しも例外的な事態ではない。その可能性はむしろ書かれた言葉の本質に属するであろう。

 

3.

Klein は、その後の ”How time is encoded” (2009)において、TUをテンスに関する基礎的概念とすることを批判し、新たな理論構成を試みている。

自然言語の時制に関する探究は)特定のテクストタイプへの偏りが強い。時間表現に対する従来の研究は、多くの場合、現実に起こる単数の出来事を扱っている。他のテクスト・タイプ、例えば指令、説明書、法令は、もし扱われるとしても、この偏りを背景として分析されることになる。これは少なからず問題を孕んでいる。重要な時間的カテゴリーであるテンスは、situation を発話の時点moment of speech へと関係づけるものとされる。だが、小説、ケーキのレシピ、法令における発話の時点とは一体何なのか?しかも、これらのテクスト・タイプは、何も珍しいものではないのである。(Klein,p4 )

時制の投錨点はdeicticに与えられると、伝統的に見なされてきた。すなわち、いわゆる「今」の時点、「発話の時点momemt of speech」、「発話時time of utterance」TU がそれである、と。この強く根付いた観念は、様々な偏見を反映しており、テンスに関する従来の探究は、これらの偏見によって性格付けられている。(ibid. p8)

このように、発話時speech timeの概念は ー 文が発声された時刻を意味するのであればー 出来事が時間に位置づけられる仕方の、特殊なケースに過ぎないのである。(ibid. p10 )

TUを基盤とすることの不都合は、Kleinの言うように、小説、法令等のテクストを考えて見れば明らかであろう。このようなテクストの時間表現については、個別的に明らかにすべき様々な問題があるだろう。だが、今は立ち入らない。

Klein は、上述の論文で、TU, TSit, TT という三つ組によるシステムから、CLAUSE-INTERNAL TEMPORAL STRUCTURE とCLAUSE-EXTERNAL TEMPORAL STRUCTURE との関係づけという理論的枠組みに移行している。その検討も別の機会とする。

次回は、さらに、To(TU)の曖昧化(不定化)と 第四種動詞のル形用法について考えてゆきたい。