第四種動詞の周辺(10)

1.

習慣相の説明のところで、Kleinの "habitual"という概念を紹介し、そのポイントが複数のTopic time(TT)を表現する点にあることを説明した。

そこには、まだ不明瞭な部分が残っている。Time  of utterance(TU) と、それら複数のTTとの関係である。

habitualの例として、日本語や英語で見られるような、動詞の現在形で習慣を表す場合を考えよう。

私は朝、昼、晩に歯をみがく。

He gets up at seven.

Kleinの見方に拠れば、これらの文は、複数のTTにおける、同じ事象を表現する。アスペクト的にはperfective である(TT⊃TSit)。

では、それぞれのTTとTUとの関係はどうであろうか。

Kleinに拠れば、現在テンスの定義は、TUがTTに含まれることであった(TT⊃TU)。

とすれば、定義からして、各々のTTはいずれもTUを含んでいる、と考えたくなる。つまり、これらのTTは、TUという時点を共有した期間の集まりである、と。

 

ところが、これではおかしなことになる。と言うのも、この構造なら、TUの近傍でsituationが一回生起するだけで、(ほぼ)すべてのTTについて、TT⊃TSitとなる。つまり、TUの近傍で一回生起しただけで、習慣が成立することになる。

 

しかし、本当に習慣が成立すると言えるのは、下の図のような場合であろう。この時、それぞれのTTについてTT⊃TSitであるためには、situationは複数回生起しなければならない。つまり、複数の、TUを含まない期間Pについても、P⊃TSitである必要がある。

このように、habitualのTTには、TUを含まないものもなければならない。

だが、その場合、Kleinによるpresent tens の定義(TT⊃TU)からは外れてしまう。

 

2.

これを説明するモデルの考え方には、2つある。

まず、前々回の仮説のように、複数のTTを包み込むDomain of TT(DTT)を設定し、TUがDTTに含まれることが、この場合のpresent tensの意味である、とする方向。

もう一つは、TUを基本概念とはせず、より基礎的な概念に立ち返って考えてゆく方向である。

ここでは、どちらが説明として適切か、は措いて、後者の道を進む。実のところ、Kleinにおいても、TUは根本概念とは言えないからである。