第四種動詞の周辺(4)

1.

第四種動詞とテイル形の問題に戻る。

第四種動詞におけるテイル形の機能を、「他者との対比」とする考え方の問題点については既に見た

それは例えば、第四種動詞がル形で用いられる場合もあって、そこでも「対比」の機能の面ではテイル形で用いられる場合と変わりがない、という事実から知られた。

そのような第四種動詞がル形で用いられる場合について考えてゆくことが、今回以降の課題である。それによって、「第四種動詞の ”~テイル” は、いかなる機能を持っているのか、(或いは)いかなる事情でテイル形をとるのか」という問いに答える途を探ってゆく。

 

2.

まず、第四種動詞と変化動詞・動作動詞の区別が微妙な場合について説明を補足する。

普通、動作動詞や変化動詞のテイル形は、事象が、動的・変化過程の1局面にあることを表わす(動作継続、結果残存のテイル形)。

それに対し、第四種動詞の”~ている”は、事象の様態を動的・変化過程から切り離された状態として表現する。これが一般的な見方であろう。

しかし、仔細に見ると、第四種動詞と変化の表現との関係には微妙な場合が存在する。

第四種動詞と語幹が共通する動詞の例として、「のんびりする」を挙げてみよう。

(用例①③は、寺村秀夫『日本語のシンタクスと意味Ⅱ』p138から。「のんびりする」は動作動詞なのか、それとも変化動詞なのか?おそらく、<変化+状態を保持する動作 を表わす動詞>というべきだろうが、この問題にはここでは立ち入らない。)

① 彼女は久しぶりに温泉に来て、のんびりしている。

② 彼女も、ここに赴任してきた当初は忙しそうにピリピリしていたけど、今じゃ万事につけてのんびりしているね。

③彼女の物の言いかたは、どことなくのんびりしている。

①は、<変化+状態保持>動詞の例、③ は第四種動詞の例と見なせるだろう。

では、② はどうだろうか? この「のんびりしている」は、持続的な状態を表していることで③に近い。だが、その状態を<変化~状態保持>という過程の一局面として表しているともとれる。すると、①との類似も認めたくなる。

(行為の意図性の問題が、ここに関わっている。)

以前挙げた、

この種のアクションシーンは、今日の映画においてありふれている。

においても、背後には「ありふれていない状態⇒ありふれた状態」という変化の存在が含意されていた。(※ただしこの場合、それは「この種のアクションシーン」自体に起こる変化ではない、という反論も可能だろう。)

 

3.

第四種動詞の周辺(3)”では、第四種動詞の暫定的な分類を試みた。こういった分類は作業仮説のようなもので、考察の見通しをつけるために提示されており、考察の目的によってまた適当に改変される態のものである。

ここでは上の「のんびりしている」のような例を念頭に置き、変化との関係で、第四種動詞に関連する用例の分類を試みよう。

ある表現された事象について、変化の結果として表されているか否かは問わず、それが変化の過程を自身の歴史に有する時、「変化を履歴に持つ」と呼ぶことにしよう。

(※ここでは、便宜的に、動作動詞が表す「歩く」「踊る」等も変化の過程と見なす。)

「変化の履歴の存在」と「ル形の許容度」という2つの変数をとる。

動詞のテイル形の用例(習慣的、過去的用法を除く)を、次のように分類してみよう。

a. 変化を履歴に持つ事象に適用され、同じ事象に関するル形での用例も存在するもの、:(悪い遊びを)している、(スプーンが)曲がっている (風呂で)のんびりしている 、(生存者が危険な場所から)離れている

 

b. 変化を履歴に持つ事象に適用され、同じ事象に関するル形での用例が、(通常)存在しないもの(※書き言葉では、ル形が許容されるものがある。「そびえる」など):(この種のシーンは今や)ありふれている、(A選手は、今では実力が)ずば抜けている、(山が)そびえている

 

c. 変化を履歴にもたない事象に適用され、同じ事象に対するル形での用例が存在するもの :(<質量>と<重さ>は、概念的に)異なっている、(その日は祝日に)当たっている
 
d. 変化を履歴にもたない事象に適用され、同じ事象に対するル形での用例が(通常)存在しないもの(※書き言葉では、ル形が許容されるものがある。「面する」など):(青い目を)している、(道が)曲がっている、(生まれつき性格が)のんびりしている (問題図の円と直線は)離れている (非常口は庭に)面している

 

上で分かるように、a.とd.を兼ねる動詞が存在する。また、a.,b,.d.を兼ねるもの、b.,d. を兼ねるものもありそうだ。

c. の例に挙げたのは「関係動詞」と呼ばれるものである。既に少し触れたが、金田一春彦は、この種の動詞「違う」について、「違う」の形で用いられた時は、状態動詞、「違っている」の形で用いられた時は第四種動詞である、と見なした。これに対し、奥田靖雄の見方によれば、これらはアスペクトの対立を持たない動詞となる。

(cf. 金田一春彦「国語動詞の一分類」p11

  奥田靖雄「アスペクトの研究をめぐってー金田一的段階ー」p207

  山岡政紀「関係動詞の語彙と文法的特徴」 )

 

一般に、第四種動詞の用例とされるものは、b.~d. に含まれる。これらは、それぞれの分類の内部においても少なからぬ差異をはらんでいるため、これを基にした第四種動詞の詳細な分類を試みることは困難である。ただし、探究の足掛かりとして、この分類を役立てることはできよう。

具体的には、上の分類から、いくつかの問いを引き出すことができる。

例えば、

①どのような事情で、a.,d. を兼ねる動詞は、変化を履歴に持たない事象に適用されるのか。

②なぜ、b.の動詞は、変化の履歴を持つ事象に対して、ル形での使用を持たないのか。

③c. の動詞において、ル形の用例とテイル形の用例では何が異なるのか

④なぜ、b.やd.において、書き言葉ではル形が許容される場合があるのか

⑤なぜ、話し言葉では、b.d.においてル形が許容されないのか。

⑥b.において、書き言葉でル形が許容される動詞とされない動詞にはどのような違いがあるのか

⑦d. において、書き言葉でル形が許容される動詞とされない動詞には、どのような違いがあるのか。

これらの問いすべてに対してはとても不可能であるが、今後、いくつかに対しては可能な範囲でアプローチできれば、と思う。その範囲としては、②~⑤を考えている。

付け加えるなら、これらの問いそのものに回答することよりも、問いを通じて、言語使用の実態にいくらかでも迫ることを重視する。また、これらの動詞の多様性から考えて、それぞれの問いに唯一の答えがあるとは期待しない。