イントロダクション

分類と展望

1.ウィトゲンシュタインが心理的概念のなかに見出した差異、中でも重要なものは、一つは志向性に関連する対立であり、もう一つは時間様態をめぐる差異であった。そして両者は連関していた。 RPPⅡ45において、通常の感覚は<意識状態Bewußtseinszustand>とさ…

心理的概念のアスペクト

1.体験と体験ならざるものの対立に関連する、もう一つ別の差異が、ウィトゲンシュタインによって繰り返し取り上げられている。それは、RPPⅠ836で<経験Erfahrung>を特徴付けるものとされていた<持続Dauer>という時間的様態にかかわる差異である。 心理的…

体験と持続、不適切な問い

1.心理的概念の風景を眺めるに当たって、まず何に注目したらいいのだろうか? 意外にも思えるが、心理的概念全般の分類に関して、体系的な整理を意図した断章を、ウィトゲンシュタインはいくつか残している。(RPPⅠ836、RPPⅡ63、148)。それらのなかで比較的…

狙いと関心

1. 概念の傾斜を理解し、表現することは難しい。(LPPⅠ752) 前回、ウィトゲンシュタインの取り組んだ課題が、<概念の地形学>という比喩で表現されることを見てきた。「一つの概念を他の概念に移行させる傾斜を、はっきりと見てとる」(RFM Ⅴ 52)とは、言…

心理的概念の地形学

1.言語ゲームの多様性の観点から、心理的概念の領域を眺めるならば、次のように言うことができよう。往々にして、一つの言葉にいくつもの使用が存在し、なおかつそれらの使用が互いに大きく異なっている、と。 たとえば、<考える>について。 <考える>、…

記述に留まる

1.以前、「語られることと示されること」という『論考』の主題のその後について触れたが、他方で、「語りえぬものについては沈黙しなければならない」(TLP 7)という有名なテーゼに込められたものは、後期の思想において、「説明の断念」という姿勢へと継承…

役割の決定不能性

1.とくに原初的な言語ゲームにおいては、ある言表の「役割」を、より発展した言語ゲームの中でのようには、明確に確定しがたい場合がある(原初的な言語ゲームにおける決定不能性。PI 19以下の断章は、そのことを提示する典型的な議論である。)このことは、…

役割の転換

1.諸言語ゲーム間の差異と類似というテーマに、一つの「像」のさまざまな使用というテーマを重ね合わせることができる。一般に、言語ゲームにおける個々の言表は、平叙文、疑問文、命令等に分類されるが、また、それぞれの特定の「役割(はたらき)」Dienst …

移行と中間項

1.ウィトゲンシュタインにとって、差異の強調、2つの極の対比を際立たせることと同じく重要であったのは、それら対比された項の間の移行的例、中間項を発見する、という方法である。 それらすべてに何か共通なものがあるかどうか、見よ。-なぜなら、それら…

比較の体験

1.定義の表現のように、同一性や類似を提示する言語表現がある。例えば、「・・・は・・・に似ている」など。そして、前々回見たように、そのような言語表現の使用の仕方という問題を、ウィトゲンシュタインは提起していた。 さらには類似を知覚する体験につ…

異なる技術をつなぐ

1.同一性との関連で、定義について考える。 定義は、「・・・=。。。」、「。。。は・・・である」等の表現によってあらわされる。これは、同一性の表現と見ることができる。 数学と論理学は、二つの異なった技術である。定義とは、単なる略記ではない。そ…

同一性と規則

1.同一Gleichheit、一致Übereinstimmung、同一性Identitat等の概念について。 これらと「規則に従う」こととの結びつきが注目される。たとえば、「その規則に従って数列を続けよ」は、多くの状況下で、「それと同じ仕方で数列を続けよ」といった言葉で言い換…

類比という方法

1. 他方、「類比」は、ウィトゲンシュタインの言語批判において、主要な手法の一つである。例えば、一見遠く離れている言語活動の中に、共通した相を浮かび上がらせること、つまり類似性を浮き彫りにしてみせることは、ウィトゲンシュタインの用いる、重要で…

類比の運動

1. 「差異」と対をなすものは「同一」あるいは「類似」であろう。ウィトゲンシュタインのテクストに登場する、それらに関連の深い言葉(概念)について整理しておこう。 まず、ひとは、2つのものを類比させることによって、類似を認識する。それゆえ、2つの…

違いを教える

1.ウィトゲンシュタインの弟子で親しい友人でもあったDruryは、ウィトゲンシュタインの個人的な会話での発言を、次のように伝えている。 私には、ヘーゲルは、違って見える物事が本当は同じものなのだと、いつも言いたがっているように見える。それに対して…

『哲学探究』第Ⅱ部

1.数学論に変わって、ウィトゲンシュタインの考察の中心(「メインストリート」)となったのが、「心理学の哲学」、すなわち、心理的概念に関する考察である。それについて、ウィトゲンシュタインの存命中に、最後にまとめられたタイプ原稿が、『探究Ⅱ』であ…

文法と応用

1. 一般的には、同じ字面の文が2つの異なった使用をされる場合には、2つの別の命題として、すなわち異なった意味を持つものとして扱い、それらが同じ字面を共有するという事実は重要視しないのが正しい哲学的姿勢とされるのだろうか。その立場に拠るなら、2…

メインストリートに戻る

1. 前回引用した『数学の基礎講義』の初めの方でも、ウィトゲンシュタインは、道路の比喩を取り上げて言う。 私は、いわば、ある土地の旅で、君たちをガイドしようとしているのだ。数学において哲学的困難に陥るのは、他の領域でと同様に、われわれが見慣れ…

歩行 展望 記憶

1. さて、先に引用した講義の約6年後の(アラン・チューリングが出席し、応答していることで有名な)数学の基礎に関する講義の中でも、ウィトゲンシュタインは何度か道路や歩行の比喩を持ち出している。 その中に、次のような例がある。ある日、彼は数学的概…

はじめに

はじめに~略号表 これより、L・ウィトゲンシュタインの「後期の著作」(『哲学探究』をはじめとする、アンスコムらの編集によって出版された遺稿)を読みながら、個人的な覚書、リファレンス等を記録して行く。 1.ウィトゲンシュタイン『心理学の哲学Ⅰ』よ…