「説明」の周辺

「説明」の周辺(16):「驚き」の行方(後)

1. <驚き><注意を引かれる>は、前回の例とは異なった方向に向かうことがある。 『茶色本』から。 ウィトゲンシュタインは、手描きの顔の絵を示して言う。 この顔が君にある印象を与える。そこで君は、「確かに、私が見ているのは単なる線ではない。私は…

「説明」の周辺(15):「驚き」の行方(前)

1. 前々回、ウィトゲンシュタインが、「意味」「感じ」「考える、期待する、願う等の行為」といった捉えがたい、「心的な」事象 を考察する際に、それらに関する「表現」をそれらの事象と同列に置いて考察するよう勧めているのを見た。 彼は、知覚的アスペク…

「説明」の周辺(14):「記述」の観念

1. ウィトゲンシュタインは、なぜ、美学的対象の「表情」と、それに対する主体の反応としての「表現」とを「同列に置いて」考察しようとするのか、というのがわれわれの問いだった。 その意図を推測してこの場で十分に描き出すのは困難である。が、まずは、…

「説明」の周辺(13):2つの " expression "

1. ここまで、ウィトゲンシュタインが美学的対象の「表情」「身振り」といわれるものについて語っていること、それらを「表情”expression, Ausdruck”」という語で指示していること、を見てきた。 彼ににおいて顕著なのは、このような「表情expression」を美…

説明の周辺(12):「表情」というインターフェイス

1. 鑑賞者によって同じ作品に対する評価が異なることは、芸術にはつきものである。 例えば、ピカソのキュビスム時代のある油彩画をみて、A氏は「美しい」と言い、B氏は、「どこが美しいのか、さっぱりわからない」と言う。 また、ある演奏家の弾くヴァイオリ…

「説明」の周辺(11):美学的対象と美学的反応

1. ウィトゲンシュタインの「美学に関する講義」の内容を、 ①美学的対象 ②美学的反応 ③美学的説明 の3つの側面からみてゆく。 ※よく知られるように、「美学」と訳される"aesthetics",”Ästhetik"は、語源的には古典ギリシャ語の「感覚」を意味する語「アイス…

「説明」の周辺(10):後期ウィトゲンシュタインとカント

1. ウィトゲンシュタインの「美学に関する講義」の内容について、いくつか確認する。 彼が講義で述べた内容は、大学の人文系学部で研究されているような「美学」に類似したものではなかった。 むしろ、それは、「美」に関連して行われる日常的な言語ゲーム(…

「説明」の周辺(9)

1. ウィトゲンシュタインの「美学」に関する発言は、彼の講義をG. E. Moore や学生たちが筆記したノート、およびそれらを編集した出版物を通じて知られている。 それら「美学」に関する発言が記録され残された講義の時期は、1932-33年、1938年夏である。(G.…

「説明」の周辺(8):部分-全体、手段-目的、原因-結果

1. 前回まで、ウィトゲンシュタインが、「理由を述べる」行為を「計算の道筋を示す」行為に類比して把握しようとしていることを見てきた。 「計算の道筋を示す」行為は、実際には(ウィトゲンシュタインの言う)「像」Bild を用いて行われることに注意しよう…

「説明」の周辺(7):「並べて」「見せる」、合意と注意

1. 前回引用した文から、次のようなことが示唆されている。すなわち、「説明」が正当化のためになされる場合、そこで描出される「道筋」は、「ある受け入れられた規則に合致する」という性格を持つべきである、こと。 人が為したこと、言ったことの理由を述…

「説明」の周辺(6):記述、比較、正当化

1. 前回予告したように、説明における、事実と「理念型」(範例) の関係がもたらす問題について、主にウィトゲンシュタインが触れている範囲で取り上げてみる。 理由を挙げることは、時には「私は実際にこの道を歩んだ」ことを意味するが、時には「私はこの…

「説明」の周辺(5):隠された構造

1. 前々回、ウィトゲンシュタインの「理由」理解に対する疑問の一つとして、 ①全体の「道筋」を示すのでなく、一つの行為のみを述べることで理由が示されることもある。 という事実を挙げておいた。 彼の説明によれば、あたかも、理由を与えることは「計算過…

「説明」の周辺(4):3つの疑問

1. ここまで見たように、ウィトゲンシュタインの「理由と原因」の差異に関する議論は、彼の「数学の基礎」に関する論議と 全く同じ骨格を持っている。つまり、彼の議論において、理由と原因の区別は、論理的なつながりと経験的なつながりとの区別に対応する…

「説明」の周辺(3):「メカニズム」の比喩

1. 前回、ウィトゲンシュタインの「原因と理由の差異」を問う議論において、 「理由」が「計算」というメタファーによって把握されていることを見た。 一方。「原因」はどう捉えられているだろうか。 君の行為の原因はこれこれである、という命題は一つの仮…

「説明」の周辺(2):「計算」の比喩

1. 前回述べたように、「説明」の周辺を掘り下げると、まず「理由と原因」の問題に突き当たる。そこで、ウィトゲンシュタインによる「理由と原因の差異」の議論を見てゆきたいのだが、前もって考えておかなければならないことがある。 前回見た「A氏の遅刻の…

「説明」の周辺(1)

1. 後期ウィトゲンシュタインと「説明」 に関するメモ。 『探究Ⅰ』の最初の節に、「説明 Erklärung」に関する重要な主張が早くも登場する。 説明は、どこかで終わるものだ。(PI 1) この主張は、類似した「理由の連鎖には終わりがある」(BBB p143, RPPⅡ404, …