a toy calculus of actions(9):変化率の概念

1.

進行相の特徴、「時点に関して、situationの変化を述べる」ことが可能、という問題に戻る。

この逆説的に聞こえる言葉の内容に関して、当ブログでは、まず

⒜「時点に関して、持続するsituationを述べる」ことと

⒝「時点に関して、situationの変化を述べる」こととを区別した("a toy calculus(6)")。

⒜は、変化のない状態を述定する、stative verbにも可能だからである。

 

⒜について、当ブログでは、

「ある時点におけるsituationを、それを含む全体的situationの一部として示すこと、すなわち、その時点を全体のtime of situation の部分として示すこと」

であると理解した。それを可能にするものは、日常言語に備わるimperfective aspect の機能であった。(cf. " a toy calculus (7)")

 

そこから、⒝について考えてみよう。

「変化は、瞬間においてでなく、ただ期間においてのみ語り得る」という一般的な立場(cf. " Topic time とテンス・アスペクト(14)")からは、「時点に関して変化を述べる」というのは逆説的に見える。

しかし、⒜にならって、⒝を、

「ある時点におけるsituationを、変化を含む、ある全体的situationの一部として示す」ことと理解するなら、逆説的な見かけは消えるように思われる。

 

当ブログが「aがtにhしている」に類比可能な式として構成した 、<act(a,t,h)>(Ⓐ式)を再掲する。

dd₁FD
[ Ă(a,t,d) & m(d,d₁) & d₁=F '(a,t)

& t₁≤t∀d₂(Ă(a,t₁,d₂)→∃d₃(m(d₂,d₃)& d₃=F '(a,t₁)))
&∃t₂≥t(F(a,t₂)=D) & Cr(D,h)]   ... Ⓐ

下線部は、t以前の期間に、F 'に沿って<動作>が続くことの表示である。

(cf. "a toy calculus(4)")

tにしている<動作>(dで表される)は、F ’に沿った、tまでの<動作>のシーケンスの部分であることが示されている。

t はtopic time に相当するから、Ⓐ式はKleinの謂うimperfective aspectの条件を満たす("Topic time とテンス・アスペクト(12)”)。

そして、その<動作>のシーケンスが変化を含むものなら、Ⓐ式は⒝の特徴を持つと言える。

 

※なお、実際の進行相の文においては、t以後における、一連的<動作>の継続に関しても、「事実として」ではないが、「モーダルに」主張されている、と見てよい。それを含めた全体の部分として示されている、とも言えよう。これについては、また後で触れる。

 

2.

しかし、進行相について、⒝の特徴に関する別の側面も認めることができよう。

それは、いわば

「ある時点におけるsituationに、"変化率"を指定する」というものである。

それも、「導関数」を割り当てるような仕方で。(この意味については前回を参照。)

ただし「変化率」は比喩であり、もっと普通の言い方をすれば、

「ある時点におけるsituationに、変化の仕方を指定する」。

「変化率」や「変化の仕方」という概念に問題は残るが、このような言い方をすれば、⒝の逆説的な響きは消えるだろう。

「ある時点における変化率」に喩えられるものを、進行相による描写の中に見出そうとすることは、まさしく「微分への類比」に他ならない。

 

しかし、進行相の文が皆「時点」に関わっているわけではない。ゆえに、一般化して言うなら、次のようになる。

「topic time におけるsituationに、変化の仕方を指定する」。

ただし、その指定の仕方は、不確定的な関数をあてがうように、である。(どのように不確定であるかは、前回を参照。)

Ⓐ式の場合は、"F '(a,t)"がその関数であり、topic timeにおけるsituationは"d"で表された(いずれも束縛された変項であることに注意)。ここで「変化の仕方を指定する」に相当するのは、「dを、関数F '(a,t)の値となる<動作>タイプに属するもの、として捉える」ことである。(ここで、上述した、t以後に関する「モーダルな」継続の想定が効くが、それについては、なお後述する。)

進行相の文においては、「〇〇している」が、そのような関数を暗示する役を担う(ただし、「○○している」とⒶ式の"F' "とは直接には対応しない。"a toy calculus(4)"を参照。)。Topic timeにおけるsituationを、「○○している」という述語のもとに捉えることが、「変化の仕方を指定する」ことである。

(このような見方をした場合にも、Ⓐ式でも進行相の文でも、TTがTSitに完全に含まれるというKleinのimperfective aspectの規準が満たされている。)

 

前回強調したように、単に「○○している」と言うだけでは、「変化の仕方」は、不確定的に指示されるのみである。

また場合場合によって、「変化の仕方」の確定度には差があるだろう。

そのように差はあれど、理解が可能になるのは、われわれが「○○する」ことの経過の様について、一般的な理解を前もって有しているからである。

すなわち、進行相の使用に関するポイントは、”関数”の時間的展開様態の先行的理解、である。

また、「変化の仕方」や「変化率」という概念は、その変化をするsituationの現実的な 存在/非存在から独立して使用することが可能である。

つまり、「変化の仕方」が、対応するsituationの現存/非現存から独立して語られる & 時間の関数のように与えられる 、 という2点が、「微積分への類比」のポイントなのである。

 

3.

以上によれば、進行相の文には、

「Topic timeにおけるsituationを、全体的situationの部分として示す」

「Topic timeにおけるsituationに、変化の仕方を指定する」

という2つの側面が共在している。

それが、

⑤持続的な事象を、幅のない時点に関しても述べることができる

という特徴に対する、当ブログの観点からする説明となる。

 

当ブログでは、理由あって、「視点」のような「観察主体の比喩」を排した、進行相のモデル、の可能性を探ってきた。(cf. ”持続と認識”、”Topic timeとテンス・アスペクト(7)”)

その際に、新たなモデルの原理としたのが<部分ー全体>関係であった(cf. ”Topic timeとテンス・アスペクト(17)”)。「微積分への類比」もその試みの一つであった。

ここまでの話しを、<部分ー全体>関係の観点から繰り返してみよう。

進行相の示す<部分ー全体>関係は、二重の相を持つ、と言える。

時点tに「○○している」と言えるためには、一般に、それ以前の期間において、「○○する」ことに特有の経過をたどっていることが条件となるだろう(" a toy calculus(4)")。そしてtに行っていることもその経過の一部である。その意味で、tにおけるsituation は、全体的situationに対して、事実的な<部分ー全体>関係にある。

もう一つの相において、tにおけるsituationには、特有の「変化の仕方」が指定される。それもまた、「○○している」という言葉で表される。「変化の仕方」は、変化を含む全体のsituation(=「○○する」)を前提とするが、それを事実として前提するのではない(そのことはimperfective paradoxの成立に示される)。この意味では、tにおけるsituationは、全体に対して、いわば形相的な<部分ー全体>関係にある。すなわち、それは、上に述べたような意味での「関数」を通じた関係である。

 

4.

進行相の文をⒶ式に類比することで、 imperfective paradoxについて説明できるように見えるかもしれない。

すなわち、Ⓐ式において、問題となるsituationの持続は時点tまでであり、それ以降における持続は(事実的なものとしては)主張されていない。

そして、tに「変化の仕方」を指定することも、将来におけるsituationの実現を意味しない。

このように見ればimperfective paradoxの成立は当然のこととなる。

ただし、それはもちろん、Ⓐ式をimperfecitve paradoxが成立するように構成したからであって、imperfective paradoxが、何か別の根拠から説明されたわけではない。

 

1.で、t以降のsituationについて、実際の進行相の文では「モーダルに主張されている」と述べたのは次のような意味である。

例えば、" John was crossing the street."という文が真でありながら、彼が渡る途中、激痛の発作でしゃがみこんだor交通事故にあったor忘れ物に気づいて引き返した、等の「アクシデント」によって、通りの向こうに達しなかった、と言うことは普通にあり得る。しかし、何の「アクシデント」もないのに、Johnが通りの真ん中で立ち止まって路面電車に乗って...と言う場合は、元の"John was crossing the street."が真であることは疑わしい。

つまり、「ノーマルな条件下」では、進行相の文「...している」で主張された行為(「...する」)が実現するのでなくてはならない。

このような進行相の文の特徴については、Ⓐ式への類比は答えを与えてくれるわけではない。

 

しかし、他の特徴の幾つかについては、「微積分への類比」が理解のヒントを与えてくれるように思われる。

そして、それは「微積分への類比」の、もう一つのポイントに関連するのである。