1.
Klein による、4つの基本的な文法的アスペクトの定義。
それは、topic time(TT)と time of situation(TSit)との関係に依っている。
a. TT included in TSit : imperfective aspect
b. TT at TSit : perfective aspect
c. TT after TSit : perfect aspect
d. TT before TSit : prospective aspect
(ここで、'TT included in Tsit' はTTがTSitに完全に含まれる場合、'TT at TSit' はTTがTSitに部分的に含まれる場合を意味する。後者は、TSitがTTに完全に含まれる場合をも含む。)
この内、perfect, prospective aspect については、直感的に捉えやすいだろう。
Klein によれば、英語におけるprospective aspect の存在は明確ではないが、候補として挙げられるのは、<be going to不定詞>である(Time in Language, p104)。
残るimperfective, perfective aspect を含めて、これらの定義を検討、確認しておこう。
2.
まず、<0-state contents>について。
この場合、すべてのTT は、TSitに含まれる。
従って、いずれの叙述も、imperfective aspect であり、アスペクトの違いが生じない。
これは、Vendler分類でいうState verb(Stative verb)に通常、進行形がないことを理由づける。
また、"π has been an irrational number" のような文が奇妙であることにも理由を与える。
3.
次に<1-state content>について。
Klein は、一時的状態(例「空が真っ赤だ」, "Peter was asleep")をも<1-state content>に含めている(cf.p83)が、彼がアスペクトの説明の際に典型と見なしているのは、Activity verbの類のようである。そして、彼の説明は、いささかActivity verbの場合に寄りすぎているように思われる。(例えば、"Peter was asleep" は、TT-contrastを持ちながら、通常の使用では、perfective / imperfective の変化をとらないが、Time in Language に、その理由に関する説明はない。)
しかしここでは、Kleinの発想を捉えることが目標であるから、その辺の問題には立ち入らないで進むことにする。
1-state contentは、TSit の前後に、pretime, posttime を持つ。ある発話がprospective aspect であれば、発話のTTはpretimeに完全に含まれる。対するに、perfect であれば、TTはposttime に完全に含まれる。
また、imperfective aspect ならば、TTはTSitに完全に含まれる。
問題は、perfective aspect の場合である。
まず、TTがTSitを完全に含む場合、およびTSitの終端(プラスposttime)を含む場合に、perfective aspect での記述が妥当となることに疑いはない(例えば「私の兄は去年家を建てた」「母は、明日ワクチンを打つ」など)。
それに対し、TTが、pretime およびTSit の初端を含むが、終端を含まない場合が問題である。
Klein は、この場合に、perfective での記述が不適切な状況と適切な状況とに分かれることを認める。
(10) Mary slept.
この発言は、法廷での通常の質問(「あなたが部屋に入った時、何を目にしましたか?」)に対する返答としては、不適切であろう。しかし、証人が、その日の午後2時から5時の間、メアリーがしたことすべてを含めた、その時間に目にした出来事すべてについて尋ねられていたとしたら、先の返答は全く適切なものとなるだろう。( p102-3)
後の場合、メアリーがTT の初めでは目覚めていて、TT の途中に入眠し、TTの終わりにも眠ったままであった場合も、(10) のように perfective で答えることが妥当となる。
今後、TTの場合と区別して、TSit の初端を開始限界、終端を終了限界、と呼ぶことにする。
まとめると、
終了限界がTTに含まれるとき、perfective での叙述が適切となることは一般的に認められる。
これに対し、開始限界のみがTTに含まれる場合に、perfective の叙述が適切となるか否かは条件による、と言えよう。適切となる場合が非常に例外的、とは言えないのである。
その条件には、語彙的アスペクト(situation type )のような、situation の様態によるもの(ゆえに、テンス、アスペクトの解明にはlexical content の3つの分類で十分であるというKleinの主張は、既に疑わしく感じられる)だけではなく、語用論的なもの、がある(上の法廷の例を参照)。
これらの条件については、これまで様々に研究されており、小さなスペースで簡単にまとめることはもとより困難であるから、ここでは立ち入らずに進もう。
4.
<2-state content>の場合。
前回見たように、Kleinは2-state content を、source state(SS)とtarget state(TS)から成るものと捉える(p85)。
一般的には、その間に「移行期transition」が存在する可能性があるが、「移行期」もTSitの一部であり、source state が終われば、すでにtarget stateになっているはずである。
つまり、
SS : ●●●..., TS : ✩✩✩... として図示すれば、
<2-state content> は、 ●●●●● ✩✩✩✩ のようにブランクがあるのではなく、
●●●●●✩✩✩✩✩ のように継続的か、あるいは、●●●●✪✪✩✩✩ のように2つの状態が(なんらかの様態にて)重なっている。
この、「SSが終われば、すでにTSになっている」、言い換えれば「TSになっていなければSSは終了していない」という性質が後に重要なポイントとなることに留意しておきたい。(この場合、SSはTSを終点endとする、telic な性質を持つ、と言えよう。)
Klein によれば、2-state contents を記述する場合の基本的な原理は、SSかTSか、どちらか一方が、発話のアスペクトに関わる状態(the state relevant for aspect)となる、ということ、
つまり、発話全体のアスペクトは、そのどちらかとTTとの関係によって決定される、ということである(TL, p105)。
英語や日本語の場合、選ばれるのは通常、SSの方である。
そして、SSとTTとの関係は、1-state content における、situation とTTとの関係と同じ様に扱われる。
ただし、大きな違いとして、2-state content におけるSSのposttime の内容は、(TSの内容として)lexical に規定されているが、1-state content のposttime は、その内容がlexicalに規定されていない、という点がある。
実際には、諸言語においては、2つの状態のいずれかが選ばれ、アスペクトに関連する状態the state relevant for aspectとしての扱いを受けるようである。その上で、その状態をめぐって、1-state situation について述べたのと同様の機構がはたらくのだが、そこには重要な違いがある。pretimeとposttimeが、単に時間的に規定されるだけでなく、「lexicalに性格付けられている」という点である。
英語においては、source stateが、選ばれた状態となる。target stateの方は、そのlexicalに規定された性格を、posttimeに投影する。すなわち、posttimeは、あるポジティブな性格を有することになる。それは、1-state situationの場合のように、単なる「後続する状態」ではないのだ。(p105)
さて、SSが、1-state content におけるsituationのように扱われるから、TTがSSのTSitより後に位置しさえすれば、それがTSのTSitに含まれていようが、TSのTSitより後に位置しようが、アスペクトはperfect となる。
●でSS、☆でTS、[ ]でTTの範囲を表すと、下のように図示される。
perfect : ●●●●●✪✪✪☆[☆☆]☆☆ あるいは ●●●●●✪✪✪☆☆☆☆☆[ ] など
また、imperfective となるのは、TTが、SSのTSit のみに完全に含まれる場合であり、TSのTSit に完全に含まれる場合、SSおよびTSのTSitを含む場合はimperfective にはならない。
imperfective : ●●[●●]●✪✪✪☆☆☆☆☆
imperfectiveでない : ●●●●[●✪✪✪☆]☆☆☆☆, ●●●●●✪✪✪[☆☆☆]☆☆
perfective となるのは、TTが SSの終了限界を含む場合である(TTがSSのTSitを完全に含む場合も含まれる)。上で述べたように「SSが終われば、すでにTSになっている」ことに注意。
1-state content との違いで注意しておきたいのは、SSの開始限界のみを含む場合にperfective での記述が妥当になることは、基本的にないということである。
perfective : [ ●●●●●✪✪✪☆]☆☆☆☆ あるいは●●●[●●✪✪✪☆☆☆]☆☆ など
perfectiveでない : [ ●●●●]●✪✪✪☆☆☆☆☆
そして、
prospective : [ ] ●●●●●✪✪✪☆☆☆☆☆
5.
以上、Kleinによる基本的な4つの文法的アスペクトについて、簡単に説明した。
最後に、複合的アスペクトとして、英語の完了進行形の場合を簡単に例示しておこう。(詳しい解説は行わない。)
① John washed the car.の場合、
<wash the car>を、accomplishment verbと捉えるなら、つまり、「洗った状態」をtarget state とするtelic な動詞と考えるならば、
①が(真なる言明として)とれるTT は、SSの終了限界を含む任意のtime span である。
●●●●[●☆☆]☆☆☆
それに対し、
② John was washing the car.の場合
②のTTは、SSのTSit に完全に含まれる。
●●[●]●●☆☆☆☆☆
また、②の真は、TSが達成されたことを意味しない(imperfective paradox)から、
●[●●]● のような場合にも、②は真である。
さらに、
③ John had been washing the car.の場合
③のTTは、<wash the car>のSSのTSit全体を 直接の関係する領域としない。②が(真であるときに)とるTTに重なるTSitがその関係領域となる。つまり、②のTTが、関連するTSitを選択する役割をする。
②のTTを{ }、③のTTを[ ]で表すと、
③は、
●{●●}●●☆[☆☆☆]☆や、{●●}●●[●☆☆]☆☆☆や{●●●●}●☆☆☆☆☆[ ] の場合に真となる。
また、●{●}●● [ ] のような場合にも、③は真となる。
(cf. p118)
6.
次回は、Kleinの定義によって、文法的アスペクトにまつわる現象がどのように説明されるかを見てゆく。