a toy calculus of actions(7):もう一つの比喩

1.

前回の続き。

まず、問題として現れたのは、stative verbに可能な、次の機能であった。

「持続的な事象を、幅のない時点に関して述べる」ー

これを「ある時点を、事象が持続する期間の一部として示す」機能だと捉え直してみよう。そうすれば、文面から受ける逆説的な響きは消えてしまうだろう。

 

この機能を可能にするには、2つの条件がある。

①ある時点が、ある期間の部分をなしていることを表示する仕方が言語に備わっている。

②ある期間の部分をなすものとしての「時点」について語ること、が有意味であるとされている。

 

われわれの日常言語は、どちらをも備えている。

②については、古代や中世の日本ならいざ知らず、現代では、科学的世界観と科学技術の浸透とともに、幅のない時点について語ることは意味がある、とされている。また、ある期間の一部として、そのような時点に言及することについても然りである。

①については、アスペクトという仕組みがある。

Wolfgang Kleinの理解では、アスペクトとは、topic time(TTと略) とtime of situation(TSitと略)との関係を表示する。

基本的なアスペクトの一つ、imperfective は、topic time の期間が、time of situation の期間に完全に含まれることを表す。(cf. ”Topic timeとテンス・アスペクト(12)”)

従って、「ある時点を、事象が持続する期間の一部として示す」仕組みは、日常言語に備わっている。

 

ここで、stative verb の特性を確認しておく。

(※以下では、"individual-level predicate ", "0-state content" 等の概念にまつわる様々な問題点については触れずに、大雑把な見取り図を描くことを目標とする。)

Klein に従うと、stative verbの中でも、individual-level predicate が表すlexical content は、<0-state content>であり、いかなるTTをとっても、TSit に含まれることになる。すなわち、叙述文のアスペクトは常にimperfective となる。

問題は、stage-level predicate の場合であるが、その場合にも、通常の叙述は(TTとTSitとの関係を見れば)imperfectiveになる。

「夕方遅くにわれわれが到着した時、○○海岸は暗かった。」

朝が来れば、○○海岸は明るくなるはずであるから、<○○海岸が暗い>というsituationの期間は限定されている。しかし、上の文は、TTがTSitに含まれており、imperfectiveである。TTがTSit の限界に関わる叙述をしようとするなら、「暗くなり始めた」のような、迂言的な言い方が必要となる。

individual-level predicateの場合、TTの取り方に、命題の真理値が左右されないから、特定のTTに言及せずに総称文generic sentenceで、ある対象の性質を述べることができる。

「富士山は美しい。」

ところが、同じ内容のことが、あえて特定のTTについて述べられる場合がある。

「苦労して、私はその海岸にたどり着いた。疲労困憊していたが、富士山が美しかった。」

「叙想的テンス」の内の一例を見よう。

「そうか、ここの足し算を間違えていたんだ。37+46=83 だった。」

individual-level predicate あるいはKleinの謂う<0-state content>の場合、本来特定の時点への言及は不要に見えるが、体験との関係で、特定の時点がTTとなることがある。

(この問題は、当ブログの関心の内にあり続けている。例えば、"「説明」の周辺(40)”、”体験による出来事化”を参照。)

 

2.

さて、stage-level predicate の場合、一般に、situation は永続的ではない。

「彼が部屋に入った時、ナポレオンは上機嫌だった。」

ナポレオンが生まれてから死ぬまで常に上機嫌であったわけはない(また彼が地上に存在していた時間にも限りがある)。しかし、上機嫌であった期間、ない期間を上の文のみから具体的に規定することは困難である。

下の引用は、activity verbの場合であるが、stage-level predicateにも当てはまる。

例えば、<Chris read in the Bible>によって記述されるsituationには、一般的に境界があるはずである(始まりや終わりの無い読書というsituationは、通常ではないから)。しかし、lexical contentは、境界については何も語らない。また、situation の持続期間についても同様である。(Wolfgang Klein, Time in Language, p73)

(またこれは、習慣相で習慣化している期間が明示されない場合にも類比的である。

例)「太郎は、朝、散歩する。」)

 

だが、われわれは、文脈的な情報や経験的な知識から、time of situation の期間について、ある場合には極めて大雑把に、あいまいに、ある場合には細かく、推定することができる。Kleinは、一般に言葉の含みimplicatureをもたらす、そのような経験的知識を、world knowledge と呼ぶ。一般に、言葉の意味それ自身(lexical content)のみでは文は機能せず、文脈的な情報やworld knowledge が必要とされる。(cf. W. Klein, op.cit. p72)

そして、stage-level predicate の場合、時間的に限定されたsituationを表すがゆえに、叙述文のtopic timeがどの位置であるかは、極めて重要で必須の情報となる。indiviual-level predicate の場合との違いに注意したい。

 

3.

ここまで述べたことを、別の例に喩えてみよう。その比喩は、「微積分の比喩」の展開をも容易にしてくれるはずである。

 

平面の色彩をサンプルを用いて示すことを考えてみよう。

サンプルは、実際の色見本でもよいし、RGB表色系やJIS色票番号などの記号によるものでもよい。

そして、問題となる平面を横に細長いものに限定し、縦方向の色彩は、どのラインにおいても一つに定まっているとしよう。つまり、平面にxy座標を設定した時、任意の定数をaとして、どのaにおいても、x=aの直線上の色彩は変化しない、とする。要するに、色彩の変化(色相や明度の変化)は、x軸方向にのみ起こる、と。

 

この平面上の色彩が一様であれば、表示には、一つのサンプルの提示で事足りる。また、何らかの位置情報は不要である。

一定の広がりの範囲で一様であり、その範囲が正確にわかっていない場合、サンプルと共に、広がりに属していることが明らかな一点を指定すれば、何がしかの「正しい」情報がもたらされよう。

もちろん、これらを、上で見たstative verbの文の比喩として見ることができる。総称文は初めの例に、stage-level predicate の文は2番目の例にたとえられる。

 

さて、色相や明度が変化する場合について、サンプルを用いた表示を考えてみたい。それは次回に。