動態動詞ル形の用法について(2)

1.

前回、ル形の変則的用法の分類として、次を挙げた。

Ⅰ 反復や習慣を表す用法
Ⅱ 属性叙述
Ⅲ 一般化して表現する用法
Ⅳ 実況解説的用法
ⅴ 遂行動詞や態度表明の動詞
Ⅵ 知覚・思考・内的状態の表出
Ⅶ 可能態、自発態

以下、順に見てゆきたい。まずは、細かい部分には立ち入らず、それぞれを概観できる程度に、各用法について把握してゆこう。

 

2.

Ⅰ反復や習慣を表す用法 については、既に当ブログとして、次のように捉えてきた。

・野田高広(「現代日本語の習慣相と一時性」)の謂う「非限定的解釈」習慣文の一部をなすものであり、全体として、「限定的解釈」習慣文と対立する。(「限定的解釈」習慣文は一般にテイル形をとるが、「非限定的解釈」習慣文にも、テイル形をとるものがある。)(cf. ”テイル形と習慣用法”)

・特徴的なのは、topic time(TT)が複数化されることであるが、それらのTTは、time of utterance(TU)を含むものばかりであってはならない(”第四種動詞の周辺(10)”)。ゆえに、現在の習慣を表す文であっても、一般的な現在テンスの文のように、「すべてのTTについてTT⊃TU」と解釈することはできない。

・複数のTTは一種の”量化”を受けるとみなされよう。その”量化”がどのようなものであるか、また”量化”されるTTの性格がどういったものかは、個々の実例から学ぶ必要がある。

・ただし、TUは、文のテンスの決定に役割を果たしている。すなわち、ル形習慣文の場合、TUが複数のTTを包括するdomainに含まれる(現在の習慣)か、またはそのようなdomainがTUから見て未来にある(未来の習慣)。domainがTUから見て過去にある場合は、タ形をとる(過去テンス)ことになる。TUは、domainの位置がそれとの関係で決定される参照点となっており、その関係によって文のテンスが決定される。その意味でtime of orientation(To)の地位にあると言えよう。

以上から、ル形習慣文の場合、TTが複数化・”量化”されているが、To=TUである、ただし、TT⊃TUという定式は成り立たない、と整理しておこう。

 

3.

前回挙げた、4つの観点から見ておく。

構文的特徴について。

TTのdomainは、しばしば、副詞や副詞節によって示される。すなわち、Ⅰの用法は、「時々、度々、よく、毎年、...ごとに、このごろ、今は」といった副詞や、「...して以来」「...のときは」「...の場合」といった副詞句・従属節を伴うことが少なくない。

この頃は毎日八時に起きるよ。

彼は、暇ができると大抵、映画を見にゆく。

心配しなくていい。君の英語は、レッスンにゆくたびに、上達する。

それゆえ、形式意味論でいう、「副詞による量化 A-Quantification」(cf. David Lewis "Adverbs of Quantification" , Angelika Kratzer "Conditionals " )の観点から分析することが可能であろう。この観点において、ⅠとⅡの類似と相違の明確化が期待できるかもしれない。

人称制限については、一般には問題ないだろう。

 

テイル形への変換については、上で触れたように、2つの場合を区別しなければならない。

一つは、「非限定的解釈」の領域で、反復される個々の行為が、異なったアスペクトにおいて捉えられる場合。

a. 私が訪問する時、弟はいつも酒を飲む。

b. 私が訪問する時、弟はいつも酒を飲んでいる。

 

(※ついでに言えば、bのような「非限定的解釈」テイル形習慣文の存在も、TTの複数化を想定したり、TT⊃TUという現在テンスの定式を放棄したりする根拠の一つである。

たとえば、aのようなル形の「非限定的解釈」習慣文に対する、上述とは異なった解釈として、TTはTUを含んだ一つの長い期間であり、複数のTSitが、いずれもTT⊃TSitという条件でそこに含まれる、というものが考えられよう。ここではTTは複数化されていない。

この場合、一つのTTについて、TT⊃TUという現在テンスの定義が満たされているし、個々のsituationについて、TT⊃TSitというperfectiveの条件も成り立っている。

しかし、テイル形「非限定的解釈」習慣文bの場合、この図式の内側では、imperfectiveの条件TT⊂TSitが成り立つのは次の場合のみである。

しかし、bは、次のような場合にも成り立つのでなければならない。ここでTT⊂TSitは成立しない。
 

ゆえに、この解釈は困難を抱える。

そこで、TTは、「私が訪問する時」のような条件節によって示される、不連続な複数の期間から成るとしよう。

その中で複数のsituationがperfectiveやimperfectiveの条件を満たして成り立つことが「非限定的」習慣文の構造である。

しかし、その場合、TT⊃TUという、一般的な現在テンスの定義はどうなるだろうか。

例えば、b文は、次のような場合には真となるはずである。

ここでは、imperfectiveの条件TT⊂TSitが成り立っている。ただし、現在テンスの定義TT⊃TUは満たされない。

すなわち、「私が訪問する時、弟はいつも酒を飲んでいる。」は、この図のように、必ずしもTUに弟が酒を飲んでいることを意味しない。しかし、現在テンスの定義TT⊃TU、imperfectiveの条件TT⊂TSitがともに満たされるのであれば、TU⊂TSitでなければならない。つまり、発話時に弟が飲酒していることになる。

ゆえに、上の定義はこの場合には当てはまらない。)

もう一つの場合は、「非限定的解釈」から、「限定的解釈」に移行することでテイル形をとる場合である。

あの家族は、いつも朝食にはパンを食べる。

あの家族は、一週間前から、朝食にはパンを食べている。

期間を表す副詞句と「限定的解釈/非限定的解釈」との関係という問題は、”第四種動詞の周辺(8)”で触れたが、簡単に見通せるものではないから、ここでは立ち入らない。

話し言葉において、一般には丁寧体(~ます)が使える。ただし、「住む、つき合う、愛用する」といった「長期動作動詞」においては、話し言葉あるいは「はなしあい」のテクストでは、ル形習慣的用法がとりづらいこと、その場合「かたり」のテクストにおいては許容度が上がりやすいこと、を、以前取り上げた(”第四種動詞の周辺(9)”)。これに関して第四種動詞との類似点についても触れた。