Topic time とテンス・アスペクト(8)

1.

再び、テンスの本性の問題に戻る。

Klein によれば、テンスとは、これまで考えられていたような、situation の時間を(time of utterance との関係において)指し示すもの、ではない。

言い換えれば、テンスにおいて、time of utterance と直接関係づけられているのは、time of situation ではない。

Klein は、テンスにて示される時間、すなわち time of utterance と直接関係づけられる時間を <topic time>と呼ぶ。

この topic time が、time of utterance と time of situation とを媒介する(TL, p37)。

(※今後必要に応じ、Klein にならって、topic time⇒ TT、time of situation⇒ TSit、time of utterance⇒ TU と略記する。)

発言のlexical content は、あるsituation を部分的に記述する。そのsituation は、自身の時間ーthe time of situation TSitーを持つ。しかし、the time of utterance  TU に直接に連結されるのはTSit ではない。その2つを媒介するリンクがある ー 個々の発言がそれについて主張を行う時間が、それである。(TL, p37)

 

2.

<topic time>とは、どのような性格を持った時間なのか。

Klein は、topic time を、

・話し手の主張が、そこへと限定されている期間 the time span to which the speakers claim is confined (TL, p6)

・個別の発話が、そこに関して主張をおこなう期間 the time for which the particular utterance makes an assertion (TL, p37)

のように定義している。これらの定義をまずは受け入れて進んでいこう。

 

そこで、このようなtopic time(TT) と、time of situation(TSit), time of utterance(TU) との関係を、具体的な例について見てみよう。(cf. TL, p3~, 39~)

例えば、法廷で

「あなたが部屋を覗いた時、何かに気づきましたか?」

と裁判官に問われて、ある証人が、

「明かりが灯っていました。」

と答えたとしよう。

裁判官の問いは、ある定まったTT(「あなたが部屋を覗いた時」)を設定し、証人はその期間(TT)について、生じたことを答えている。

このTTは、2つのTU に対して、より以前に位置する。

質問や証言のテンスは、いずれも過去である。

明らかなのは、明かりが灯っていた期間(すなわちTSit)は、裁判官が設定し、証言がそれについてなされたTTに、必ずしも限定されないこと、その場合にも証言の適切性には何ら影響がないこと、である(TL, p3)。つまり、その部屋で明かりが灯っていた期間(TSit)は、このTTを含んで前後の期間にも広がっている可能性が高いであろう。それでも、TTがそのTSitの中に含まれてさえいれば、この証言は正しいのであり、TTがTSitと一致する必要はない。

 

次に、同じ問いに対して、証人が、

「明かりが灯りました。」

と答える場合を考えよう。

この場合、TTは、先に考えた場合と等しい。

しかし、その期間に生じたことは、先の場合と異なっている。

すなわち、この証言が正しければ、TTの間に、明かりが消えている⇒明かりが点いている、という状態の変遷が生じていたことになる。

 

2つの場合の違いを捉え直そう。

TTは等しい。しかし、TT内における、situationの在り方が異なっている。つまり、TTとTSitとの関係に違いがある。前の場合には、TSit がTTの全体を含む。後の場合では、それとは異なり、TTがTSitを(部分的に)含んでいる。

そして、それが、2つの証言における文法的アスペクトの違いによって現れている(テイル形⇔ル形)。そのことが決定的に重要である。

 

3.

このような例から、Klein は、テンス、アスペクト概念の再定義を引き出す。

テンスは the time of situation と the time of utterance との時間的関係temporal relation を表すものではない。そうではなく、the time of utterance と 話者がそれについて主張をなそうとする、ある時間ーすなわち the topic time との関係 を表すのだ。(TL, p23)

アスペクトは、the time of situation が the topic time に関わる仕方である:TTがTSitに先立つ、TSitの後に続く、TSitを含む、あるいは、TSitに部分的に含まれる、あるいは完全に含まれる、等。(TL, p99)

テンスは、TTとTUとの関係を示し、文法的アスペクトは、TTとTSitとの関係を示すーKLein の定式化はこのようにシンプルである。

可能な様々な関係の内で、基本的な3つのテンス、4つの(文法的)アスペクトが選び出される。(cf. TL, p108,122. Klein の表記を一部改変して示す)

 

テンス

a. TU after TT (TT before TU) : past tense

b. TU included in TT : present tense

c. TU before TT (TT after TU) : future tense

(ここで、'TU included in TT' は、TU がTTに完全に含まれる場合を意味する。なお、TUがTTに部分的に含まれる場合は、一般的には想定不可能であることをKlein は指摘している。cf. TL,122)

 

アスペクト

a. TT included in TSit : imperfective aspect

b. TT at TSit : perfective aspect

c. TT after TSit : perfect aspect

d. TT before TSit : prospective aspect

(ここで、'TT included in Tsit' はTTがTSitに完全に含まれる場合、'TT at TSit' はTTがTSitに部分的に含まれる場合を意味する。すなわち、'TT at TSit' は、TT がTSit を部分的に含む場合と、TT がTSit を完全に含む場合から成る。)

 

これらの基本的テンス、アスペクトが、それぞれに対応づけられているところの伝統的なテンス、アスペクト概念にマッチしているかどうか、すなわち、テンス、アスペクトにまつわる実際の言語使用の有様をうまく説明できるかどうかが、Klein の再定義にとっての試金石となるだろう。

それを見る前に、'topic time' の概念について、少し検討を加えておかねばならない。