Topic time とテンス・アスペクト(15)

1.

前回、perfective / imperfective の対立を、<topic time内部に変化が存するか否か>として捉える、という観点を導入した。

Klein は、perfective, imperfective, perfect, prospective の4つを基本的な文法的アスペクトとしている。

しかし、言語学におけるアスペクトの概念は、歴史的には、スラブ語動詞におけるperfective / imperfective の形態的対立を 事態を見る仕方の違いとして捉えたことに由来しており、現在でも、アスペクトの基本をperfective / imperfective の対立に見ようとする傾向は強い。

さらに、可算名詞/質量名詞の対立( count/mass distinction)に 述語のperfective/imperfective の対立を類比することが広まって、この対立は基本的なものとして一層重要視される傾向にある。(認知文法など。ただし、そこでの”perfective”や”imperfective” は文法的アスペクトに限定されず語彙的アスペクトをも包括する概念である。)

 

(※認知文法とKlein の理論との間には顕著な類似があるように思われる。例えば、" immediate scope "の概念と"topic time "の概念とを比較することが可能だろう。

認知文法においては、immediate scope 内部に境界が存在するか否かがcount/massの区別に関り、perfective/imperfective の区分を決定する( cf. Langacker , Cognitive Grammar, p132,152)が、これはKlein の場合に、TT内部にTSitの境界があるか否かによってperfective/imperfective に分かれるのに酷似している。ただし、今これ以上立ち入ることは無理である。)

 

そのような立場では、imperfective は、習慣相habitual aspect等を含んだ、幅広い概念となっている。

例えば、ジョン・R・テイラー『認知文法のエッセンス』では、動詞が表すプロセスは、時間的に固有の境界を持つか否かで、まず、perfective とimperfective に分かれる。

前者は、瞬時的出来事punctual event と経過的出来事extended event に分類される。

後者は、状態stative と動態dynamic (あるいはactivity)に大別される。

さらに、perfective なプロセスが繰り返されて全体としてimperfective と解釈される場合がある。その内で、習慣habitual は状態的であり、反復iterative は動態的である。

(cf. p243-251)

 

          punctual event

    perfective 

          exended event

process 

           stative ―(habitual)

    imperfective

           dynamicー(iterative)

 

 

あるいは、認知文法以前の Bernard Comrie, Aspect においても、諸言語におけるアスペクトの典型的な分類として、次の構造のものが掲げられている(p25)。

 

   Perfective

 

   ImperfectiveーHabitual

                       ーContinuous ーProgressive

                                               ーNonprogressive

ここでも、imperfectiveは習慣相を含んでいる。

 

このように、習慣相とimperfective との親近性は広く認められている。

 

2.

では、習慣相そのものはどのように捉えられるのか?

Comrie は習慣性habituality と 反復性iterativity とを区別し、situation の単なる反復のみでは、それが習慣相によって表されるに十分ではないと言う。その上で習慣相を、次のように特徴づける。

反復的iterativeであると無しとに関わらず、どの習慣相にも共通している特徴は次である。すなわち、ある広がりを持つ期間に特徴的なsituation を描出していること、そのsituation は、その期間にとって偶発的な性格のものではなく、期間の広がり全体を正に性格づけるような特徴的なものと見なされること。(Aspect , p27-8)

Comrieは、non-stative verbによる文のみならず、used to +状態動詞 を述語とする英語文をも習慣相に数えいれている(例:Simon used to believe in ghost.)。そして、そのような文を、何ら反復性を含んでいないのに習慣相で表現される例とする。

上の定義にはその影響があるのだろう。

しかし、彼のような立場は必ずしも一般的とは言えまい。そしてより重要なことだが、Comrieの定義が、一般的な状態述語の文と (彼が言うところの)習慣相の状態述語文とを区別するのに十分であるとは思われない。

 

Carlota S. Smith , The Parameter of Aspect (Ch.3.2.3)では、習慣相は、派生的な(derived) situation type の一つとして扱われている。すなわち、習慣相は、語彙的アスペクトに近いレベルに位置づけられている。

「習慣文はsituationのパターンを提示し、意味論的には状態的stativeである。」(同上) ゆえに、Smithは" habitual stative"と呼ぶ。

derived situation type は、元のverb constellation(Klein の用語では、elementary clauseあるいはelementary lexcal content)から、situation type shift によって得られる。

習慣相の場合、元のverb constellation は、習慣を構成する基底レベルの、単一のeventやstateを描出する。

下の例では、<Susan ride a bicycle>という同じverb constellationが、メッセージの現場において、perfectiveと習慣相の間でsituation type shiftを起こす。

a. Susan rode a bicycle this morning.

b. Susan rode a bicycle last year.

すなわち、a. は一回的出来事として、b. はhabitualに、解釈されることになる。

そのトリガーとなるのは、<this morning>,<last year>といった副詞句やコンテクストである。

Smithの指摘するように、一般には、習慣相の特徴として、その部分をなす下位のsituationの描出を含む、ということがある。そして、英語や日本語では、そのような、習慣を構成するsituation は、perfectiveに描出されることも、imperfective に描出されることもある。つまり、これらの言語の習慣相と他のアスペクト値との組み合わせにはヴァリエーションがある。(ただし、その組み合わせの影響については、一言では語れない。)

下はその例。

(a) When I visited John , he used to recite his latest poems.

(b) When I visited John , he used to be reciting his latest poems.

(Comrie, Aspect , p30)

(これらの特徴は反復相iterativeとも共通する。習慣相と反復相の異同については今は立ち入らない。) 

 

Klein は習慣相をどう扱っているか。すでに取り上げたように

<John sleep>,<John be in Beijing>,<John open the window>といったelementary lexcal contentはいかなる頻度規定をも含んでいない。(TL , p206)

よって、実際のコンテクストを除外すれば、(例えば)I visited John. をsingle-situation readingすることとhabitual reading することとの間に優先関係はなく、対等である、というのが彼の見解である。

 

しかし、内容的には、習慣相の文は、基底をなすsituation の反復をあらわしたものと理解されるのでなければならないだろう。

つまり、何が基底をなすsituationであるかは明確でなければならない。また、習慣文には、その「基底的situation」の描出が現れなければならない。

 

まとめると、習慣相は「基底的situation」の描出を用いて、そのsituation が反復されるsituationを表す。

反復の頻度は、副詞句等なしには規定されない。つまり、全体のsituation の限界は明示されない。

 

3.

上で見た 習慣相の特徴によって、状態述語の文の特徴との類似が生じる。

それを認知文法の用語で捉えれば、(それらが意味するものの)均質性homogeneity、縮減可能性contractibility、非境界性unboundedness、等になるだろう。(それぞれの説明は省略)

contractibility の言い換えになるが、「一つの習慣が、ある期間において成り立っていれば、その部分をなす期間においても成り立つ」という、前回見たTaylorの公準を大まかにしたような性質 (" subinterval property" と呼ばれる)が成立することに注意しよう。

 

4.

当ブログとしては、以上のことを少し違った角度から捉えてみたい。

Klein の理論によれば、imperfective aspect では、TTは全体としてTSit の中に含まれる。そして、〈TTに対応するTSit〉 に対応するsituation がそこで描出されているが、それは一般にはsituation全体の部分である。

(※今後、「〈TTに対応するTSit〉に対応するsituation 」を、「TTに対応するsituation」と呼ぶ。)

つまり、

imperfective aspectは、TTに対応するsituation を、より大きな全体の部分として表す、と言えるだろう。

例) 「妻が帰ってきた時、私は風呂場を洗っていた」 ⇒「妻が帰ってきた時」というTTに対応するsituation を、「私が風呂場を洗った」というsituation の部分として表す。

 

次に、習慣相をどう見るか。

習慣相において、「基底的situation」は、ある期間内において(大よそ)均一的に分布する。習慣相は、一つの「基底的situation」の描出を用いて、ある期間全体を特徴づける。

よって、習慣相においても、あるsituation が、より大きな全体の一部として表されている、と言えるだろう。

 

(文法的アスペクトとしての)imperfective と 習慣相との間には、描出されたsituation を、より大きな全体の部分として提示する、という側面が共通している。

 

(※ここで、習慣相においては、(ある程度の)均質性が重要な条件であるのに対し、imperfective、例えば進行形では、均質性は必ずしも条件となっていないことに注意しておこう。例えば、ある期間をつうじて「家を建てている」という述語が真である場合に、一つ一つの瞬間に行われている行為が皆同じものである訳ではない。)

 

ここに、〈部分ー全体〉構造と〈として〉構造 が現れている。

当ブログでは、Klein の理論とは別の「比喩」を用いて、この点を探求してみたいと考えている。

 

だがその前に、Klein の議論の問題点について軽く触れておく方がよいだろう。