Topic time とテンス・アスペクト(13)

1.

ここまで見たように、Kleinは、文法的アスペクトを、topic time(TT) とtime 0f situation(TSit) との位置関係や包含関係を示すものと捉える。

彼の解釈によるアスペクトの再定義が、現実の言葉の使用をどこまで説明できるか。また、説明するに不十分な点があるとすれば、それはどこか。

 

前回、(英語の)状態的述語のimperfective/perfective aspectの問題について軽く触れた際、Klein の議論に次のような問題を認めた。

①現実の世界において、一時的な状態を表す状態的述語(いわゆる stage-level predicate、例:be asleep)について、Klein はTT-contrastが存在するものとするが、にもかかわらず、このような述語が通常imperfective/perfectiveの変化を持たないことについて説明していない。

下の文を比較せよ:<sleep>にはimperfective/perfectiveの形態的差異、用法の差異があるが、<be asleep>はそうではない。Kleinの扱いでは、両者の差異が捉えられていない。

  In this morning she was asleep. And now , she is still asleep.

? In this morning she slept. And now, she is still sleeping.

②状態的述語にも、特殊な用法として、進行形が用いられることがあるが、その条件やメカニズムについて説明されていない。

例:She is being kind for the moment.

 

現実の世界にて、<be asleep>や<be kind>といった状態に始まりと終わりがあり、TT-contrast が存在するからといって、Klein のように activity verbと(一時的な状態を表す種類の)stative verb を同じカテゴリーに入れることには問題があるだろう。Klein はテンス、アスペクトの解明には、彼の(situationの)3分類で十分であると主張するが、上のような例は、それに対する疑問を呼び起こす。

とはいえ、この問題は、文法的アスペクトはTTとTSit との関係の表現であるというアイデア自体を否定するものではない。今はこの問題に深入りせず、他の文法的現象について見てゆく。

 

2.

Kleinは、彼の定義によって、従来テンス・アスペクトの特徴として挙げられてきたものがどのように説明されるかを、特にperfect aspect について詳しく述べている。

その際 Kleinは、Bernard Comrie, Aspect におけるperfect の特徴付けを参照している。

・・・それ(perfect)は、situation 自体について直接には何も語らない。その代わりに、ある状態stateを先立つsituationに関係づけるのである。以下に詳述する議論の準備的説明のために、英語の文章 I have lost(Perfect) my penknifeI lost(non-Perfect) my penknife とを対比させてみよう。この2つが異なるとしたら、一つの可能性は、Perfectの文にはペンナイフが未だに無くなったままという含意があるのに対し、non-Perfectの文にはそうした含みがないことであろう。もう少し一般的に表現すれば、perfectは、現状に過去のsituationからの連関が持続していることthe continuing present relevance of a past situationを表示するのである。(Comrie, Aspect, p52)

Klein によれば、この ' present relevance' もしくは ' on-going relevance' は、perfect の定義から自然に導かれる帰結にすぎない(TL, p110)。何となれば、present perfect は、テンスの面ではTU(すなわち現在)をTTに含み、アスペクトの面でTSitをこのTTに関係づけるからである。このようにしてsituationは現在に関連づけされる。

テンスの面を一般化すれば、perfect の一般的な特徴づけとして、' the continuing relevance of a previous situation' (Aspect, p56)あるいは relevance beyond the situation ' が得られるが、これらは、TSitをTTに関係づけるというアスペクト一般の機能が、TSit のposttimeにTTを位置づけるというperfect一般の特性において現れているに過ぎない。Kleinはそう主張するのである。

これに対しては、いろいろな反論が可能だろう。何より、Comrie が指摘した含意はKlein の定義から得られるのだろうか?たとえpenknifeが出てきても、私が一度penknifeを失くしたというsituation自体が消えるわけではないので、私は依然そのTSit のposttimeにいることになり、Kleinの理論によれば、I have lost my penknife を使うことには何の差しさわりもないはずである。

しかし、今はこれ以上立ち入らないで、Kleinによるperfectの解説をさらに見ておこう。

 

3.

Comrie が挙げるperfectの諸タイプとKlein の解説を見てゆく。

ポイントとなるのは、perfect は TTをTSit のposttimeに置くが、両者の距離については何も特に規定しない、という点である。ゆえに様々な「距離」が、場合に応じて表されることになる。

① perfect of result

perfect of result においては、現在の状態はある過去のsituation の結果として言及される。(......)Is John here yet? という問いに対して、Yes, he has arrived は全く適切な返答だが、Yes, he arrived はそうではない。(ibid., p56) 

Yes, he has arrived とYes, he arrived の違いの一つは、前者のTTがTUを含むのに対して、後者のTTはTUを含まない点にあり、それが問いに対する適切さの差になっている。なぜなら、問いはTUを含むTTを設定しているから。

② experiential perfect

experiential perfect は、あるsituation が、過去のある時点から現在に至るまでに、少なくとも1回成立したことを表す。英語におけるわかりやすい例は、Bill has been to AmericaBill has gone to America のような文におけるbeとgo の違いである。ここに英語におけるexperiential perfect とperfect of result との違いがはっきりと表れている。(ibid., p58-9)

Bill has been to America において、Billは現在アメリカにいる必要はないし、アメリカに何度行ったことがあってもよい。このような場合、TTとTSit との距離は非常に大きいことも可能である。また、situationの直接的結果は消滅していてもよい。

③perfect of persistent situation

英語のPerfectの用法の内、とりわけ英語に特徴的と見えるものに、過去に発して現在も続いている(存続する)situationを述べる用法がある。例えば、we've lived here for ten years. I've shopped there for years. I've been waiting for hours. 他の言語の多くは、この場合、現在時制を使うところである。(ibid., p60)

これは、perfect はTTをTSitのposttimeに置く(簡単に表せば " TT AFTER TSit ")というKleinの定義に反しているように見える。(TUがTTにもTSitにも属しているようであるから。)

しかしKleinは、この用法の多くが、for~やsince~のような時の副詞句を伴っていることに注意し、次のように指摘する。

<we live here>のlexical content と<we live here for ten years>のそれとは異なっている。ここで暮らし続けて10年を越えた者は<live here>のposttimeにいないとしても、<live here for ten years>のposttimeには いるのである。

そのlexical contentの全体に注意すれば、問題となるsituationは存続してはいないことが明らかになる。ここで暮らすというsituationは存続しているが、10年ここで暮らすというsituationは存続していないのである。(Klein , Time in Language , p112)

例のperfect文の場合、<live here>のposttimeにいることではなく、<live here for ten years>のposttimeにいることが問題なのである。とすれば、Klein の定義から外れてはいない。彼はそのように主張する。

(では、時の副詞句を伴わずに使われた場合はどうなるか?)

④perfect of recent past

多くの言語で、perfectは、つい最近の過去のsituationに対して使われる場合がある。すなわち、その場合、表示される過去のsituationに対する現在の関連present relevance とは、単に時間的に近接していること、である。(Comrie, p60)

このような場合英語では、'recently' や ' just ' のような時間限定の副詞が使用可能になるが、これはperfectにおける時の副詞の使用において例外的である。それゆえ、この用法は(伝統的に理解された)過去時制に近づいているように見える。

Kleinは、このような場合にも、" TT AFTER TSit "という彼の定義は適用可能であり、時の副詞の(例外的)使用については別途の説明を必要とする、と言う。

 

以上から、Kleinは次のように結論付けている。

まとめてみれば、英語のperfectの持つ様々なタイプは、先に掲げたperfect の一般的定義に適合しているようである。そのような変異は、一つにはposttimeにおけるTTの相対的な位置取り、また他方ではlexical contentの変化、によるものに過ぎない。(Klein, p113)

次回は、perfectiveとimperfectiveについて見てゆこう。