1.
<topic time>という概念に関して。
<topic time>は、Klein によれば、例えば次のように定義される。
・話し手の主張が、そこへと限定されている期間 the time span to which the speakers claim is confined (TL, p6)
・個別の発話が、そこに関して主張をおこなう期間 the time for which the particular utterance makes an assertion (p37)
彼の定義に対して、様々なレベルで検討を加えることが可能である。
例えば、<topic time>は、専ら「主張 assertion」に相関的に位置づけられている。しかし、文のすべてが主張を機能とする文、すなわち平叙文declarative sentenseではない。それ以外の疑問文や命令文、従属節等の時間性をどう捉えるか?
ある平叙文には、必ず、一つの定まったtopic time が対応するのか? など。
しかし、ここでは、そのような問題の検討には立ち入らない。(前の問題については、TL, p58とchapter 11を参照せよ。)
ただ、<topic time>という呼び名そのものに表れている、基本的な問題について、少し触れておきたい。
2.
まず、<topic time> について。ここで<time>はどのようなものとして捉えられているのか?
Klein は次のように言う:
伝統的なテンス・アスペクト概念では、テンスは2つの「時間」(time of utterance とtime of situation)の関係を表示するが、アスペクトは関係の表現ではない、とされていた。しかし、自分は、両方とも時間の関係の表現であることを示したい、と(TL, p59)。
では、この「時間の関係 temporal relation」とはどのようなものか?
それを問う際に、そもそもここでの「時間」はどのようなものであるか、という基本的な問いを避けて通ることはできない。
その「時間」の様態から、「関係」の様態について知れることもあるだろう。
時間の関係がうまく表現されるには、少なくとも十分に似通った時間の概念が、対話者の間で共有されていることが条件となる。この時間の概念とは何だろう?(TL, p59)
ここでわれわれにとって関心があるのは、自然言語の時間的関係の表現の根底にある、特定の時間概念である。だが、この限定された領域においてすら、一致した時間概念は存在しないように見える。(p60)
だが、ともかくも、Klein はそのような時間概念を取り出して見せる。
自然言語における、時間関係の表現の根底に、「基礎的時間概念 Basic Time Concept」のようなものが存在する。この「基礎的時間概念」の上に、文化が発展するにつれて、さらなる構造、たとえば計量可能な暦的時間が加えられるのである。(p60)
「基礎的時間概念」に欠かすことのできない内容として、Klein は、次の7つを挙げている。(p61-2)
1. Segmentability:時間は、より小さな部分ーtime spans に分割できる
2. Inclusion:a およびb がtime spanであるなら、a はb に、部分的に、あるいは全体的に、含まれることが可能。
3. Linear order:2つのtime span, a とb とがinclusion の関係にないなら、a がb に先立つか、b がa に先立つ。
4. Proximity:a, b がtime span であるなら、a がb に近かったり、遠かったりすることが可能。
5. Lack of quality:time span は質的な特徴を持たない。
6. Duration:time span は、(長いにせよ、短かいにせよ)持続する。これは客観的に計量可能な延長性とは異なる。
7. Origo:「現前する経験の時間the time of present experience」と呼びうる、区別されたtime span が存在する。
これらの内容についてここで検討はしない。
見て分かるように、いずれの概念にも、<time span >が登場し、主な役割を果たしている。
Klein のテンス、アスペクト概念においても、互いに関係する「時間」とは time spanであることに注意したい。
時間的関係の定義のためによく行われるのは、time span を 実数の区間によってモデル化することであるが、Klein に依れば、そのモデルでは'proximity','duration','origo' の(直観的)内容が十分に捉えられない(cf. p62~)。
その議論に深入りすることはできないが、time span は<region>を持つ、とKlein が捉えていることには注意しておこう。(その概念は、必ずしも明瞭とは思われないが。)
われわれの直観的な概念に合うように、それぞれのtime span は自身の周りに「領域region」を持ち、その境界が文脈によって変化する、と想定しよう。卵をゆでることの領域は(平均的に)結婚相手を探すことの領域より短い。2つのtime span, s とt は、s がt に先行するか、後続するか、(部分的、あるいは全体的に)含まれるかどうか、などで区別されるだけでなく、「t のregion の内に」あるかどうかによっても区別される。(p63)
3.
「基礎的時間概念」を、その構成要素の面から見れば、次のようになると、Kleinは主張する(p64)。
無限の< time span >からなる集合
time span の順序関係 : <before>
time span 間のトポロジカルな関係 :< in>
それぞれのtime span t に対応する、t を含む、区別されたtime spanーすなわち、
t の領域<the region of t >
特別なtime span , <the origo>
ここでも、Klein の主張の内容について、立ち入って論じない。彼のテンス・アスペクト論の背後に、以上のようなアイデアが存在することを記憶しておこう。
4.
次に、<topic time>に関して。
前回、例に挙げた、裁判での尋問について、Klein は次のように指摘する。
その裁判官の質問のような、導入的な質問は、語られるべき時間ーすなわちtopic time、のみを設定するわけではない。通常、語られるべき人物、事物、場所をも設定するのである。'topic component' が導入される、と、これを表現できよう。topic component はさまざまな要素から成り、答えが適切であるための種々の制約を課すものである。このtopic component が、返答におけるfocus であり得るものを限定する。(p39)
このように、'topic time' は通常、言明の持つtopic component の部分であるに過ぎない。(p39)
頭に入れておきたいのは、Klein の議論の背後に、topic-focus というinformation structure の問題があること、特に副詞句の働きを解明する際に、topic-focus structure が重要になること、である。当ブログでその問題まで踏み込めるかどうかは不明だが、意識しておきたい。