Topic time とテンス・アスペクト(11)

1.

Klein によると、テンスは、topic time(TT) とtime of utterance(TU) との時間的関係 temporal relation を表示し、アスペクトは、topic time とtime of situation(TSit) との時間的関係を表示する。

 

基礎的なテンス、アスペクトには次のものが挙げられる。

テンス

a. TU after TT (TT before TU) : past tense

b. TU included in TT : present tense

c. TU before TT (TT after TU) : future tense

(ここで、'TU included in TT' は、TU がTTに完全に含まれる場合を意味する。)

 

アスペクト

a. TT included in TSit : imperfective aspect

b. TT at TSit : perfective aspect

c. TT after TSit : perfect aspect

d. TT before TSit : prospective aspect

(ここで、'TT included in Tsit' はTTがTSitに完全に含まれる場合、'TT at TSit' はTTがTSitに部分的に含まれる場合を意味する。TSitがTTに完全に含まれる場合も'TT at TSit' に入る。)

これらの定義が、現実の文法的現象、すなわち言語的使用に合致しているのかどうか、さらにそれらの使用をうまく根拠づけられるか、を検討する必要がある。

当ブログで扱う内容は、いくつかに絞ってゆく。

まず、imperfective aspect, perfective aspect の定義について見てゆきたいが、準備として、TSitの分類に触れる。

 

2.

アスペクトはTTとTSitとの関係とされるから、TSitがどう捉えられるかが議論の土台を決定する。

まず、基本的な関係:clause-type のlexical content は、situationを表現する。situation は、自身のTSit をもつ。TSit は、situation を通してlexical content に対応する。

Lexical content は、あるsituation を記述する。そのsituation が、時間軸上の

期間であるTSit を占めるのだ(Klein , Time in Language, p187)。

混乱を避けるために、以下のことを確認しておこう。

Klein によれば、「lexical content 自体は時間に直接にリンクされてはいない」(p36)、「節clause のlexical content は時間軸上に位置しない」(p99)、「それは我々が時間と呼ぶ構造の一部ではない」(ibid.)。

ただし、lexical content が固有の時間的性質temporal features(すなわち、'Aktionsart' や<語彙的アスペクト>と呼ばれるもの)をもつことは認められる(p30)。

 

その上で、「言語は、無時間的lexical content と time span とを結びつける仕方を見出した。それを、lexical content の、時間への埋め込みEMBED、あるtime span への引っ掛けHOOK UP、リンクLINK、と呼ぶことができるだろう。発話utteranceが行なうことはそれである」(p36) 。

すなわち、発話に伴って、lexical content は、現実の文脈に据えられ、例えば英語、ドイツ語等では述語動詞が定動詞化される。(それらをひっくるめて、Klein の言う'hook up' である。)それによって、lexical content は、特定のsituation の記述と解釈されることになる。記述されたsituation は、時間軸上に位置を持つ、すなわちTSitを持つ。

言い換えると、'hook up' が、lexical content を時間化する、つまり、具体的なsituation に結びつける。ただし、'hook up' は、lexical content をsituation に直接結びつけるのではなく、TTを介して結び付けるのである。

 

彼は lexical content をTT-contrast (下で説明する)の視点から分類するが(p81)、上に見た対応関係によって、その分類は同時にTSit の時間的なタイプの分類とも見なせる。なぜなら、TT-contrast は、situationの時間的様態に関わるから。

 

さて、それぞれの文法的アスペクトには特徴的な用法がある。例えば、語彙的アスペクトと文法的アスペクトの間には、その組み合わせに関連する種々の文法的現象(imperfective paradox等)が存在する。

Klein は、様々な問題から、従来のように分類された語彙的アスペクトを用いて、様々な文法的現象を説明するのを避けている。

先に言ったように、TT-contrast によるlexical content の分類は、TSitのタイプの分類とも見なせる。彼は、その分類を用いて、TT とTSit との関係、すなわちアスペクトを説明する。

そしてKlein は、テンス、アスペクトの分析には、lexical content の3つのタイプの分類で十分である、と主張する(p6,80)。その3つのタイプとは、<0-state contents, 1-state contents, 2-state contents >である。

 

3.

まず、TT-contrast の概念から。

Klein のTT-contrast に関する説明であるが、筆者には必ずしも明瞭とは思えない面がある。また、その叙述にブレがあるようにも思われる。

しかし、この場でその点を詳しく追及すると話が進まないので、Klein の説明を、なるべく簡素に構成してみよう。境界的事例に関する細かい議論は端折って、直観的に進もう。

 

あるsituation に対応するTSit をTSit₁ とする。任意のTTをとり、それをTT₁として、

TT₁がTSit₁に(完全に)含まれる場合、「TT₁が、TSit₁にリンクしている」と表現しよう。

それ以外の場合、「TT₁ は TSit₁ にリンクしていない」と言う。

また、対応するlexical content(すなわち、そのsituationを記述するlexical content。 LCと略)に関して、「TT₁はLCにリンクする(しない)」とも表現する。

(※TT₁がTSit₁ に部分的に含まれる場合、またTSit₁ がTT₁ に完全に含まれる場合は、今は考慮の外におく。)

あるlexical content、LC₁ について、TT₁がLC₁にリンクし、TT₂がLC₁にリンクしていないとき、LC₁は、TT₁とTT₂との間にTT-contrast があると言う(p80)。

 

<Napoleon Bonaparte be alive>を、lexical contentの例に取ろう。

ナポレオンが出生する前のTTはこのLCにリンクせず、ナポレオン死後のTTもリンクしない。その間にあるTTはLCにリンクする。すなわち、TSit に含まれるTT と、含まれないTT との間で、TT-contrast が生じる。

(Klein は、Tsitより以前の時間領域を、そのTSit の 'pretime', TSit以後の領域を'posttime' と呼ぶ。cf. p83)

このようなLC は、「'outside contrast' あるいは'external TT-contrast' を持つ」と言われる(p5,86)。このようなLCを、<1-state contents>と呼ぶ。

この場合、pretime, Tsit, posttime をまとめると「全時間」になる(p83)。

 

これに対し、<the square of tree be nine>には、すべてのTTがリンクする。すなわち、TT-contrast が生じるようなTT の組み合わせが存在しない。このようなLCを、<0-state contents>と呼ぶ。

 

<1-state contents>,<0-state contents>はいずれも、それぞれ1つのpropertyから成っている。

しかし、他のLCには、2つ以上のpropertyもしくはstate から成るものがある。その場合、一方のstate は、他方のstate の 'negative counterpart' になっている。

例えば、<Mary leave this room>は、「Maryがこの部屋にいる」「Mary がこの部屋にいない」という2つのstateから成り、その間に「境界」ないし「移行期間」がある。

Klein は、先行するstate を 'source state'、後続するstate を 'target state' と呼ぶ(p85)。

source state をSS、target state をTS と略す。

この場合、TTのリンクの仕方はヴァリエーションが増える。source state,target state のいずれにもリンクしないTT、source state にのみリンクするTT、target state にのみリンクするTT、source state, target state の両方にリンクするTT(境界を挟んで両者を含むTT)があり得るからである。

このようなLCは、'inside contrast'または'internal TT-contrast' を持つ、と言われ(p5,86)、<2-state contents>と呼ばれる。

 

4.

以上、細かい議論は抜きにして、Kleinの分類による、lexical content の3タイプを導入した。(残念ながら、わずかな例しか示せていないが。)

 

まず、「任意のLexical content を、state(の組み合わせ)と見なすことに問題はないか」「3-state contents や4-state content を考察する必要はないのか」等の疑問が浮かんでくるだろう。

ここでは、Klein の理論を手早く概観することが目的であり、このような疑問については、後に取り上げることにしたい。

 

また、Klein が Time in Language の各所で、「リンクする」という言葉を多義的に、曖昧に使いまわしていることが、混乱を招く原因となっていることは明らかである。

(例えば、上で、time span への'hook up' の意味で'link' が使われていた。これは、TT-contrastの説明で使った意味とはズレる。これについても、後に検討する。)

今回取り上げた「リンクする」の用法は、この書における一貫したものではないことに注意しておきたい。

 

上の直観的イメージを基に、次回より、Klein の考える、文法的アスペクトのメカニズムを説明してゆく。